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キミがくれたもの 8

優からのなんとも唐突な話に、口をぽかんと開けた俺だったが。 「という体にしておけば星君も帰りやすいだろうし、お前との仲を両親に探られることもないだろう。あの夫婦を騙すのは心苦しいがな、止むを得ん」 付け加えられた言葉の意味を理解した俺は、確認のために同じことを聞き返す。 「俺は急な出張が入って、2ヶ月間家に帰って来れねぇー設定で動けと?」 「何か問題か?」 「いや、自然とも言えねぇーけど不自然じゃねぇーし有り得る話だ。他のコーチでも、どっかのスクールにヘルプで飛ばされることはあるからな」 星が実家で心置き無く過ごすための口実、それを用意して現れた優は有能な執事だ。おそらく光と共に考えられたであろう俺の偽出張期間だが、俺から星の両親に連絡だけは入れるべきだろうと思った。 「親父さんはともかく、幸咲さんは星君の異変に勘づくだろうから。あまり長期間、星君を実家に留まらせておくのは困難だ」 俺と星の間に何があったのか、そこを隠し通せるだけの技量が俺にあるだろうか……ある、ない、の問題ではなく、やるしかないのが現実なんだけれども。 先が思いやられて仕方がない己の現状に、俺は重い溜め息を零して。 「幸咲さんを騙せる自信はねぇーけど、バレたらバレた時で俺は正直に話そうと思う。その前に、片付けなきゃならないことをしっかり整理して向き合わねぇーと」 足踏みしてるだけでは何の解決にもならないことを再認識し、俺が職を失う覚悟で兄貴に連絡する決心を付けた時。 重苦しい空気に包まれていた室内が少しだけ、柔らかな風が吹き抜けたような気がした……のは、どうやらコイツの所為らしく。 「雪夜に与えられた時間は2ヶ月間……それが俺と光、星君からの贈り物だ。限られた時間の中で、お前は自分の過去にけじめをつけてこい」 全ては俺が撒いた種なのに、怒ることもせずに俺の判断を待つ選択をした星のために、優がここまで言ってくれるヤツだと俺は思っていなかったから。 「100パーセント俺の子じゃねぇーって、お前ら絶対そう思ってんだろ」 優から溢れ出ている根拠のない自信を感じた俺は、照れ隠しにそう呟き煙草に手を伸ばしたけれど。 「そりゃあ、そうだろう。学生時代、お前にどれだけの数のコンドームをプレゼントしてやったと思っているんだ。避妊のひとつも満足にできん男を、光が許すわけなかろう」 「……なんつーか、お前らの自論って時々すげぇーぶっ飛んでるよな。そこがいいとこなのかもしんねぇーけど、今は笑えねぇーわ」 学生時代、俺の誕生日を祝ってくれた光と優からのプレゼントは毎年コンドームだった。 ヤリ捨てポイ常習犯だった過去の俺にはある意味必需品だった物だが、ソレを使用したからといって絶対ではない。避妊は確実にしていたように思うけれど、万が一ってこともあるのだから。 けれど、おかしな昔話で俺の背中を押した優は俺が抱える不安要素を軽くしてくれた。

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