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キミがくれたもの 10

諦めた夢、平凡な日常。 あの日の俺は纏った学生服の下に、やる気のなさを潜ませ学校の屋上で独り、煙草を咥えて佇んだ。 俺には、失うものなど何もないと心底思いながら。 「……こっから、飛び降りちまおうかなぁ」 この世界から俺がいなくなったところで、誰も悲しまないし気にもしない。俺以外は全員他人で、男と女とそれ以外しかこの世の中には存在しないのだから。 このまま生きていくのが酷く面倒に感じて、死ぬのも悪くはないかもしれないと……そう思い呟いた言葉は、紫煙と共に流され宙を舞い消えていく。 俺も煙りのように消えてしまえたなら、心の重さを感じなくても済むのだろうか。無気力な俺でさえも持っている感情は、その心は、やけに重かった。 こんなもの、なくなってしまえばいい。 俺が存在することに、これといった価値などない。 ただ毎日をなんとなく生きて、なんとなく時間だけが過ぎていく。それが当たり前の日常と化し、何にも興味が持てなくなってどのくらい経つのかもあの日の俺は忘れていて。 同じ毎日の繰り返しに、飽き飽きするばかりだった。けれど、時が過ぎれば日付が変わるし曜日も変わる。緩やかに季節は流れていくものだし、空を見上げれば昨日と同じ風景はどこにもなくて。 気がつけば、曇り空の下。 夏が過ぎ去った秋風に吹かれ、俺の体が少しずつ寒さを感じ始めていたそんな時。 「やっぱりここにいたっ!」 勢い良く扉が開き、屋上へとやってきた人物が俺の小さな自殺願望を引き止めた。 本当に死にたいのかと聞かれれば、それは俺にもよく分からない。でも、生きていればそれなりに死にたくなる時だってあるんじゃないかと俺は個人的に思うから。 サラサラの黒髪を靡かせ、笑顔で手を振り距離を縮めてくる同級生へ俺は視線を移した。 「ユキちゃん、隣いい?」 「俺がダメっつっても、お前は隣にくるだろうが。何の用だよ、光」 素直に友達と呼べるほど、俺とコイツは馴れ合ってない。そこら辺にいる他人よりかはお互いに良い距離感が保てる相手ってだけだが、それでも何かと連れ立つことは多くて。 「今ね、ユキの元カノに告られてきたんだ。学校一の美少女彩希ちゃん、優等生の皮を被った淫乱女って言えば分かる?」 「お前だって、王子の皮を被った悪魔じゃねぇーかよ。彩希、さき……そんなヤツいたっけか?」 「俺は、あの子みたいに中途半端なことはしないもの。ユキには付き合ってた自覚がなくても、相手にはあるみたいだよ」 「ふーん、俺には誰だか分かんねぇーけどな」 「これだから、ヤリ捨てポイの男は困っちゃう」 艶やかな髪を指に巻き付け、そう語る光。 光が告白された相手のことなど俺は覚えてないし、女と付き合った記憶もない。光の言う通り、俺は俺が好きな時にヤることヤれたら充分だから。 「簡単に股開く女が悪い。そもそも、抱いてくれって頼んでくるのはいつだって女の方だぜ?頼まれごと引き受けてやっただけ、ありがたく思ってほしいもんだ」 「情の欠片もない男だね。まぁ、俺はそんなユキちゃんが結構好きだから別にいいんだけどさ。彩希ちゃんからね、光君なら私を大事にしてくれるでしょって言われちゃった」

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