148 / 153

キミがくれたもの 12

いつまで経っても回答しない俺に痺れを切らしたのか、光は溜め息を吐き横目で俺を見る。 「……せいが忘れたのは、辛い過去だけじゃないの。人形だって言われ続けて傷ついた心が、せいを本当の人形に変えちゃったんだ」 笑い方を忘れた弟は、感情を持たない人形だと。そう言って瞳を閉じた光の睫毛は、僅かながらに震えているように思えた。 本来なら興味などない他人の話なのに、どういうわけかこの話だけは深刻に受け止めている俺がいるけれど。 「……それって、治ることあるのか?」 どう声を掛けていいのか分からず、気の利いたことが言えない俺はそう訊ねていた。 「治らないことが殆どらしいんだよね。日常生活に支障はないし、完全に笑えないわけじゃないし……親しい人には笑顔を見せることもあるから、心の病気はせいが自分を護るためのものだと思う」 「これから先、記憶が戻ることはほぼないってことか」 「そういうこと。まぁ、通院するほどの深刻な病いってことでもないみたいだし、スクールカウンセラーの先生とはコミュニケーションがとれてるみたいだから俺が悩んでもしょうがないんだけどさ」 外見は光よりも可愛いらしいが、内面は内気で人見知り。心に傷を負いながらも、光の弟は学校に通い現実と向き合っているらしくて。 「笑えねぇーのはどうかと思うけど、嫌な記憶が消えたままならそれはそれでいいのかもしんねぇーな」 「せい本人はいじめられてる自覚はあるけど、どんなことをされているのか記憶が曖昧ままだからね。傷が深く残らないならそれでいいけど、俺はせいに笑ってほしい」 普段は笑顔を振り撒いている王子様だが、その行為の裏には弟の分まで笑おうとする兄の顔があることを知り、俺はなんとも言えない感情を抱える。 ……ほら、また重くなった。 心の重さは人それぞれ違うのだろうが、こんなものを抱えて日々を生きなきゃならない人間は滑稽かつ愚かだ。それを分かっているのに、俺たちは自然と生きることを選択する。 あの日と同じように空を見上げ煙草を吸い、学生時代に光と話したことを思い出した俺は、光の話を聞いた時から生きる理由を見つけていたのかもしれないと思った。 思い出した過去から数年後、百聞は一見にしかずで星と出逢った瞬間……漠然と俺の心に存在し続けていた生きる理由が、俺の目の前に現れて。 触れたい、と。 あの時、直感的に感じた俺は恋愛感情も分からぬまま星に触れていたのだ。 時が経ち、振り返えなければ分からないタイミングと運命の選択。 何も考えずに飛び降り自殺を試みようと思った俺を止めたのは、弟を愛する気持ちで溢れた王子様で。俺に生きろと促したのは、醜い世界でも懸命に生きようとしているまだ見ぬ恋人の話だったから。 星が俺にくれたものは、決してなくしてはいけない何より大事なものなんだと……俺は、優の言葉と光との過去からそんな一つの答えに辿り着いたのだった。

ともだちにシェアしよう!