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ブラザーコンプレックス 3

どんな時だって、『大丈夫』だと言ってくれる雪夜さんがいないこと。だからオレは、こんなにも不安定なんだって腑に落ちて……でもすぐに、どうにもならない虚しさに襲われた。 オレが落ち込んでいる時、今みたいに塞ぎ込んでしまうような時、オレは雪夜さんの大丈夫だって言葉をずっと信じて前を向いてきたのに。 もちろん、全てを雪夜さんの言葉に任せていたわけじゃないけれど。雪夜さんがオレの傍にいない時だって、過去に何度も味わっていることだけれど。 でも、今回は違う。 雪の日の出来事とは、バレンタイン事件とは違う。あの時は、雪夜さんから聞けなかった言葉も、オレが言えなかった言葉もたくさんあった。信じたいのに不安で、信用出来ないのに信頼しようとしていたっけ。 雪夜さんが海外へ行った時も、半年間オレと雪夜さんはずっと離れ離れだった。 自分の名前の本当の意味を知った時も、雪夜さんにたくさん抱き締めてもらって、オレの存在を愛してもらって、大丈夫だと何度も伝えてもらって今のオレがいるのに。 お互い全てさらけ出した上で、知りたくはなかった過去も共に抱えた上で、それでもオレは、オレは……雪夜さんを信じて待つ、ただ、その選択をしただけに過ぎない。 「ユキにもせいにも言えることだけど、2人とも自分よりも相手を優先し過ぎなんだと思う。尊敬して尊重して、お互いに思いやることはとっても大事……でもね、それだけじゃ2人の心は寂しくて不安定になっちゃう」 自分が嫌い。 でも、オレは雪夜さんが好き。 けれど、兄ちゃんの考えは違うらしい。 「お互いに、自分の機嫌は自分で取ればいいんだよ。まずは自分を一番大事にして、自分を精一杯愛して可愛がってあげていいの」 「でも、オレ……こんな自分、好きじゃない」 雪夜さんの過去に振り回されているフリをして、オレはオレの感情だけで雪夜さんを振り回している。一緒に生活してたって、過去と向き合うことはできるかもしれないのに。本当はオレがキャパオーバーだから、雪夜さんから離れただけなのかもしれない。 いつまでも、ウジウジしてちゃいけない。 そんなことくらい分かっているのに、何もかもがチグハグで。自分が嫌いだと、否定し続けるオレの元に響く声は芯のある強いものだった。 「せいはさ、自分を好きになる努力はしたの?」 「……え?」 きっと、ぐちゃぐちゃな醜い顔でオレは兄ちゃんを見上げたんだと思う。眉が下がりきった兄ちゃんの表情を、オレは霞んだ視界でぼんやりと受け入れる。 「誰だって、自分の嫌いな部分や認められない部分はあるものだよ。俺にだって、そんなものはいくらでもある……けど、自己犠牲だけが愛情表現じゃないことを俺に教えてくれたのはせいだよ」 無理に好きになろうと思わなくていい。 嫌いなままでもいい。でも、まずは自分を愛してほしい。 そう続けた兄ちゃんは、オレの横に腰掛けると膝を丸めていく。 「ユキの好きな部分も嫌いな部分も愛せるなら、せいの好きな部分も嫌いな部分も自分で愛してあげよう……ね?」

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