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ブラザーコンプレックス 5

「……おや、随分とサッパリした表情をしているね。星君、気持ちは落ち着いたかい?」 「えっと、はい……ご心配をお掛けして、本当に申し訳ありませんでした。まだまだご迷惑をお掛けしてしまいますが、よろしくお願いします」 兄ちゃんといっぱい話して、お風呂に入った後。オレは、知らぬ間に帰宅していた優さんに謝罪と感謝を込めて挨拶した。 「こちらこそ、よろしく。改めて挨拶することもないのだが、親しき仲にも礼儀ありだからな」 リビングのソファーに腰掛けながらも、優さんはオレに合わせて丁寧に会釈してくれた。そんな優さんの様子を見て兄ちゃんはクスッと笑うと、タオルで髪を乾かしながら話し掛ける。 「優、おかえり。随分と遅いご帰宅のようだけど……その様子だと、大丈夫そうだね」 「ああ、彼奴はそこまで馬鹿じゃなさそうだ。知っていたつもりだったが、今日まですっかり忘れていた」 「だろうね。俺も優のその顔見るまで忘れてたし、とりあえず良かった」 兄ちゃんと優さんの会話に、オレはついていけないけれど。お互い少しの会話で相手の想いを汲み取れる兄ちゃんと優さんが、今のオレには眩しく見えた。 その後、少しだけ人間らしさを取り戻せたオレを交えて。日付けも変わりかなり遅くなってしまったけれど、優さんが夜食を用意してくれたから。 三人でテーブルを囲み、出された料理を前にしたオレは両手を合わせていく。 「いただきます」 目の前のお椀の蓋は少しだけずれていて、そこから覗くのはゆったりと揺らぐ湯気だった。久しぶりの食事だからと、優さんが用意してくれたのはたまご粥。 「熱いから、火傷しないようにゆっくり食しておくれ」 優さんの言葉に頷き、オレは本当に久しぶりの食事に取り掛かる。すると、オレと同じようにお粥を食べようとしていた兄ちゃんが口を開いて。 「優のお粥ね、とっても美味しいんだよ。酔い覚ましに丁度いいし、なんというか優らしい味がするの」 そういうと、兄ちゃんはまだ熱そうなお粥をひと口食べて微笑んでいた。 優さんといると、兄ちゃんの語彙力が低下する。なんなく前から思っていたことだけど、オレは今日で確信した。 でも。 「……確かに、優さんらしいかも」 オレも、ゆっくりとひと口食べてみた感想は兄ちゃん同様だったんだ。 「俺らしい味、か……ん、全く分からんな」 夜も遅いからと、三人ともが消化の良いお粥を口にしながら話すことは味の感想。だけれども、その肝心な感想がなんともぼんやりしている。 でも、作り手の優さんの思いを考え、何か言わなきゃと思ったオレは手を止めて優さんを見た。 「あの、とっても美味しいお粥です。美味しいんですけど、その美味しさを表現できなくて……なんと言いますか、お米と塩と卵が美味しいんです」 「そうそう。なんかね、男って感じの味……んー、でもやっぱり優って感じ」 なんのフォローにもならないオレと兄ちゃんの感想なのに、優さんはふわりと笑うと下がった眼鏡を整えて。 「どんな味だろうと、青月兄弟に笑顔が戻ったのなら俺はそれだけ充分だ」 そう言った優さんの優しさに、オレも兄ちゃんも心から感謝したんだ。

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