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ブラザーコンプレックス 6
優さんと兄ちゃんの優しさに、とても感謝した翌日。優さんも兄ちゃんもオレに付き合ってかなり夜更かししていたはずなのに、次の日の朝早くから二人とも出掛けてしまい、今はオレ独り。
兄ちゃんは仕事、優さんは大学。
当たり前の日常を過ごす二人はきっと、ほぼ寝ていないと思う。
どんな理由があったって、社会に出てしまえば私情は受け入れてもらえないことが殆どで。寝不足の身体でも平常運転を心掛けて、みんな生きているんだと改めて思った。
思った、けれど。
オレは、オレはというと。
「……休ませてもらってて、いいのかな」
私情で仕事を休み、その上兄ちゃんの恋人の家に居候までさせてもらって。社会からはぐれた自分の状況を考えると、なんだかとてつもなく申し訳なく思える。
ランさんは、お休みして大丈夫だと言ってくれた。むしろ、仕事より自分を大事にして、しっかり休養してほしいと言われてしまった。
ありがたいこと、だと思う。
ランさんも、兄ちゃんも、優さんも、そして雪夜さんも……誰も、オレを責めることはしないから。
でも。
それならオレは一体、誰に申し訳なく思う必要があるんだろう。本来なら、関係ある人の心遣いに感謝して、一刻も早く心と体を回復させることが優先されるはずなのに。
自分を大事にすることが、こんなにも下手くそだったなんてオレは思っていなかった。そして、ソレがオレにとっては心底難しいことも。
オレが、オレを責めているんだ。
自分が、自分を許せないんだ。
どこの誰だか分からない不特定多数の意見に、オレは振り回されているのかもしれない。オレの考えは、八方美人なのかな。
いい人に見られたいわけじゃないのに、頼まれごとはなかなか断れないし、自分より相手を優先してしまう。
それが時として、自分を苦しめる結果になったとしても。自分の中の根本的な思考部分が揺らいでしまうことが怖くて、結局は他人軸から抜け出せないんだろうと思う。
きっと、今回の件もそうなんだ。
雪夜さんを優先しすぎて、オレはオレの心と向き合ってあげることができなかった。自分でも知らないうちに我慢していたこと、押さえ付けていた気持ちがたくさんあったんだと思う。
いつから、こんなに臆病になってしまったのか分からない。一緒に暮らす前は、お互い仕事に勤しむ前は、自然に振る舞えていたのに。
疲れているから明日でいいや、とか。忙しそうだから今は話さないでいよう、とか。小さなことがいくつも積み重なり、やがて崩れ落ちて壊れてしまった。
一緒にいられる安心感が飽和状態に陥ると、人は大切なことを見失ってしまうのかもしれない。それは、相手に対してだけだと思っていた。だからなるべく、感謝の気持ちは伝えるように心掛けていたけれど。
自分に対しても、同じだったんだ。
雪夜さんと伴にいたからこそ、オレがオレ自身を気遣ってあげなきゃいけなかったんだ。
自分軸でいいと、兄ちゃんはそう言っていたけれど。自分を優先したら、オレはこの先、どうなってしまうんだろう。
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