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探偵ごっこ 5

仕事が終わり、日付けが変わる数分前。 俺はその時間に、独りで玄関の戸を開け帰宅した。明かりの灯らない家に帰る日々は、極力味わいたくなかったのに。 俺の帰りが遅くなったとしても、星はソファーで眠ってまで待ちぼうけしてくれていた。その姿がなくなり数日が経過し、時だけが無情に過ぎていく。 毎日のように用意されていた夕飯も、温かな湯船も、畳まれた洗濯物も……当たり前だと思ったことはなかったハズなのに、しっかり感謝を伝えていたハズなのに。 それなのに。 壊れてしまった関係は、今を繕うだけでは保てなかった。 存在そのものが、恋しい。 けれど、星が俺のいないあいだもこの部屋で費やしてくれた時間は、愛情に溢れたものだったのだと再認識する。 仕事があるのに、毎日の家事も嫌がることなく努めてくれた恋人。すれ違う時間の寂しさを堪えて、必死に笑って俺を支えてくれていた星。 俺が脱ぎ捨てたコートだって、大好きな匂いがするからと頬を赤らめながらハンガーに掛けてくれる姿は、星がいなくても浮かんでくるものなのに。 「……そんな顔すんな、ステラ」 星の代わりにソファーに転がっているステラは、まるで俺に罪の意識を植え付けるかのように無言の圧をかけてくる。 俺に抱かれるよりも、星の腕の中にいるときの方が幸せそうに見えるぬいぐるみ。ステラに意思なんてものはないんだろうが、恋人がいないこの部屋で星を待っているのは俺だけはなさそうだ。 二人で暮らすために、広い家へと引っ越したというのに。愛おしい相手は二ヶ月の間不在のまま、この家に帰ってくることはないだろう。 俺が迎えに行くその時を、星は待っていてくれると今は信じるしかない。 星本人からの連絡はないが、星の周りの人間からは業務連絡のように生存確認の報告がくる。今日の朝は幸咲さんとも個人的に話ができたし、俺が過去を振り返るのには充分過ぎる後押しをしてもらった。 やることが山積みになっているのは変わらないけれど、それでもダメ元で幸咲さんを頼って本当に良かったと思う。 俺も幸咲さんのような母親に育てられていたなら、ここまで腐った人間にはなっていなかっただろうに。 選べない親に、文句を言っても仕方がないけれど。切っても切れない親子の関係は、さまざまな部分で顔を覗かせる。 それは、飛雅と俺との関係そのものだ。 茉央の話をどこまで信じたらいいのか、俺には分からない。茉央の言い分を全て鵜呑みにする気はないのだが、それにしても心の内で引っかかることが多過ぎる。 可能性は低いと思っているのに、真実を知る術がない。ランの言うように、飛雅は飛鳥の子ってことも考えられる……というより、その方が濃厚な説だとは思うけれど。 出張の日が迫る中で、俺は過去とも向き合わなきゃならない。二ヶ月もあると思っていた時間は、二ヶ月しかない時間へと意識が変わっていく。 出張先での一週間は、おそらく身動きが取れないだろうから……となると今、当然のように会わなきゃならない相手に、俺は連絡を入れた。俺が接触を最後まで躊躇っていた相手、長男の飛鳥に。

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