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探偵ごっこ 6

大事なもの、大切なもの。 それは一つではないことを知り、全てを抱え込もうとしたら一番大事で大切な人が俺の手から離れてしまったから。 今度こそ、その手をもう二度と離さぬように……迷いを捨てた俺は、飛鳥を飲みの席に誘った。 滅多にない申し出に、飛鳥ならすぐに食いつくだろうと見越して。女の相手よりも俺を優先するに違いないと、無駄にある弟としての自信はこんな時に役立つことを知った。 「やーちゃん、久しぶり……ってか、お前今回ヤバそうだな。子猫ちゃんと、なんかあったか?」 兄貴にしか頼めない相談事がある、と。 飛鳥にはそう連絡を入れ、次の日の夜にこの場を設けることに成功したものの。呼び付けておいてなんだが、俺はどこから話出せばいいのか悩んでいる。 前に一度、優と二人で来たことのある料理店。襖で仕切れる個室があるこの店に、あまりいい思い出はないけれど。光の隠された真実を語った優が指定した店舗で、俺は飛鳥から過去を掘り返さなければならない。 「オ時間取ッテイタダキ、アリガトウゴザイマス……って、呑気に言ってられねぇーんだけどさ。考えるの面倒くせぇーから、単刀直入に訊くことにする」 自分でもよく分からない前置きを入れ、煙草を咥えた俺はその先端に火を点けていく。そんな俺の仕草を見て、飛鳥も俺と同様にゆったりと煙草を咥え、そうしてメニューを手に取った。 「可愛いやーちゃんから誘ってくれたわけだし、飲み食いしながら話そうや。お前、ちゃんと食った方がいいぞ。星くん傍にいねぇなら、尚更だ」 「……キモ、なんで分かんだよ。俺まだなんも言ってねぇーのに、最悪」 図星をつかれると、心が痛い。 それじゃなくても、これから話さなきゃならない内容は心苦しいものなのに。 「お前の顔見りゃ、嫌でも分かる。昔のやーちゃんに逆戻りしてんじゃねぇか、アホみてぇな幸せオーラはどこいった」 ヘラヘラと笑いながら、それでも俺の現状を見抜いてくる飛鳥。星がいなくなってから一週間と少し経つが、あれから俺はまともな食事をしていない。身体を気遣う余裕もなく、俺は問題解決のために必死だったから。 痛い所を突かれたが、今はそんなことを気にしていられず、飛鳥しか知り得ない情報を聞き出すため俺は兄貴を真っ直ぐに見つめた。 「兄貴、俺の童貞を奪った女の話……詳しく教えてほしい。過去に兄貴とどんな関係で、今どうしてる、とか。俺の幸せオーラを消してんのは、その女が原因だ」 全ての元凶、悪の親玉とでも言うべきか。 星を傷つけたのは俺だが、事の発端は高久親子の登場だったのだから。俺は半ば神頼み気分で、飛鳥が何かしらの情報を握っていることを望んでいるけれど。 「……あー、茉央のコトか。アイツならナナと籍入れたハズ……ん、最後に会ったのいつだっけなぁ」 重ったらしく口を開いた飛鳥は、頬杖をつき煙草の煙を吐いていく。テーブルにある店のタブレットで面倒くさそうに勝手に料理を注文していた飛鳥。その手が空いたことを確認してから、俺は声を掛けた。 「兄貴、そのナナってヤツのフルネームは?」 「高久成那(たかくし せな)」 ……ビンゴじゃねぇーか、クソ野郎。

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