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【3】10
「わざわざ寝巻き持ってきたの?」
「え、そりゃそうですよ普通でしょ」
「いや高校んときの俺のTシャツ貸してあげたのに。っていうかそっち着てよほんと」
「なんでそんな必死なんすか」
「お願いしますお願いだから俺の服着てる伊勢ちゃんが見たいです」
「すげーやだー」
風呂を出るときいつも通りの会話をこなしたからきっと高岡さんの訳の分からない微熱も一時的なものでもう落ち着いただろう、と、思っていたのだが、部屋に入った瞬間後ろから抱きしめられそのままベッドまで強引に持ち込まれてしまった。ベッドに半分沈んでからようやく抵抗の仕方を思い出す。
「ちょ、やんないってだから!」
「なんで」
「むりでしょ状況考えろよ!」
「いれない」
「は……?」
「いれないからだいじょうぶ」
なにが「だいじょうぶ」だ。この人の「だいじょうぶ」なんて信憑性の欠片もないのに、堂々と言われてさらに唇を封じ込められれば反論さえ許されず、最後の抵抗も舌でくちびるをこじあけられてあっけなく砕け散る。
そうしている間に高岡さんの手はもぞもぞと不穏な動きをして、シャツにもぐりこんで胸の先端を弄んだあと早くも下へさがっていく。寝巻のゆるいゴムをかいくぐられたら鼻から息が抜けてしまった。
「……っ」
「少しなら声出しても下までは聞こえないよ」
仕方ないから少しならいいよ、と許諾するような声色、にやにやと熱の混じる視線、そうしているうちにいつの間にかジャージも下着も下げられていて、無意識の中でも腰元のゴムに高岡さんの指がかかれば腰を持ち上げてしまう自分の素直さに嫌気がさした。
まだ熱の残っているだろうジャージと下着をぽいとベッドの下へ投げ、高岡さんは自らのそれも膝あたりまでずり下げる。すでに硬くそそり立っている性器を出しながら、俺の太ももを持ち上げる動作に嫌な予感がした。
「ちょ、いれないんでしょ!?」
「うんいれない。でも足だけ使う」
しかし予感はあっさりと否定され、代わりに馴染みの薄い言葉を持ちかけられる。高岡さんは持ち上げた俺の足をぐいと中心に寄せた。そそりたった性器を内ももにおさめ、そのままやわやわと動き始めた高岡さんと目が合って、湧きあがったのは居心地の悪い羞恥心だった。
「こ、これ……」
「じれったい?」
「なんか変じゃないですかこれ……っ」
「じゃあいれる?」
「いれない……!」
妥協案みたいな高岡さんの提案をばっさりと否定したら、拗ねた表情をされた。全っ然可愛くない表情であっても、身体が触れ合っているときはちょっと良いもののように見えてしまう。それが悔しいので目を閉じたら性器に性器を押しあてられ、熱がありありと感じられた。逃げ場もない。
「んあ……!」
「は……きもちーね……」
「ちょ、ごりごり、やんな……っ!」
「なんで? 伊勢ちゃん中もごりごりされるほうが好きじゃん」
「ちが……!」
ていうかスマタとか、やわらかくもない俺の太ももでやって何になるんだという感じだし、色々言ってやりたいことはあるのだけれどまるで挿入時のように興奮して息を乱している高岡さんが、俺の両ひざを抱えて腰を動かせばいよいよ本当に挿入されているような錯覚が起こる。性器を重ね合わせて手で握り込んでこするのに比べれば、直接的な快感は少ない。それなのに慣れない場所と階下への緊張が節々を敏感にさせてしまう。あーだめだおれこれ、けっこう好きかも。くやしいけど。
「う、ぅあっ……!」
「んっ、いく……っ」
おんなじようなタイミングで達したあと、吐き出したものを処理してお互いシーツにくったりと寝そべった。あー結局やっちゃった、という重い脱力感にぼやけていた俺はふと視線を感じて横を見る。隣に寝そべる高岡さんは、未だ熱の解けきらない目で俺をじっくりと見ていた。不思議そうに。
「なんで伊勢ちゃんがここにいるんだろうなー……」
「……あんたに連れてこられたからですけど」
「ふふ、正解」
正解、じゃねぇだろとつっこもうとしたけれど目の前のいつもより数倍だらしない顔を見ていたら正しいはずの言葉に何の意味もないことを思い出す。いつもそう。高岡さんといる時間はいつもこんな風で、だから楽しいし時々は間違えたのかなと思うこともある。そうしているうちに高岡さんはもう寝息を立て始め、俺の瞼もつられて重くなった。
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