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【3】18
「ちょ、待……っ」
「ん……っ」
「ま、待ってって」
「むり」
階段を上って部屋に到着するなり、後ろからどしんと追突された。湧き立つ欲と渦巻く感情をぎりぎりまで詰め込んだような力で押し倒された俺は、降り注ぐ唇から逃れられない。顎を固定される乱暴なキスはすぐに舌を遣ったものに変わり、剥ぎ取るように下着を奪われた。
高岡さんの注意がローションに移った瞬間を見極め、すかさず釘をさす。
「い、いれないでくださいよ」
「え? いれちゃだめなの?」
「だからあ、そういう話したじゃないですか!」
「今は亜澄も母さんもいないのに?」
「関係ないです」
「どうしても?」
「どうしても」
高岡さんは明らかに納得できていない表情を浮かべながら額にそっとキスをした。どちらかと言えば、自分自身を慰めるためにするようなキスだった。
「じゃあお前の太もも擦り切れるまでヤるから覚悟しとけよ」
「なんだそれ……」
呆れながら、高岡さんが高岡さんらしくて笑ってしまった。
ローションに濡れた指先ははじめ性器をいじっていたが徐々に撫でる範囲を広げ、ふらりと後ろのすぼみをかすめた。初めは本当にかすめた程度だったのにすぐにそこが中心となり、中指は今にも潜り込もうとタイミングを見計らっているように思える。
「ん……っ、そこ、つかわないんでしょ……!?」
「触るくらいいいじゃん」
屁理屈な子どものような言葉とともに、高岡さんの指がいよいよ入り込んできた。ただ「触る」という可愛らしい言葉は似合わない、容赦のない動きだった。
「あっ、あっ」
「あー……中いい感じに狭いね」
「ちょっ、と、んっ! そ、そこ、こすんないで……っ!」
「でもやらかい、あー……えろい感じになってきた」
高岡さんはほとんど「準備」するようにしばらく指を動かしたあと、何度目かの「やめろ」を受け入れようやく指を引き抜いた。そして太もものあたりにローションを伸ばして、下着に押し込まれたままの自身を取り出したので、ああようやく、すまた、が始まるのだろうと俺はシーツに寝たまま持ち上げられた自分の足を眺めていた。
つまり、油断していたのだ。
「んあっ……!?」
「あっ……やべー……しぬほどきもちいい……」
「ちょ、あんた、何やって……!」
「ごめんね……間違えて入っちゃった」
汗に濡れながら、妙に爽やかに笑う高岡さんはあからさまな確信犯だった。なんだそれふざけんなと言ってやりたかった、笑ってごまかせると思っているのもまた腹立たしい。
「っ、ざけんな、間違えるわけねーだろ……っ!」
「ごめんね」
「あ、んあ、あっ!」
俺の感情が爆発するより先に腰を動かしてしまうのもまた、慣れた手口だ。しかしこれは、幼子同士の決まりのやり取りのようでもあった。つまり、だ。俺ははじめから、こうなることをどこかで分かっていたような気がする。
「伊勢ちゃん……どうしたの?」
「んあ、な、なにがですか……っ!」
「すごい、いつもより熱いし、狭いし、内側ぎゅうぎゅう絡んでくんのやばい、気持ちよすぎる」
「そ、っちだって」
「ん、なにが? かたさ? でかさ?」
「どっち、もっ!」
後ろに熱を押し込まれているとき、どうしていつも判断が鈍くなるのだろう。それが高岡さんを喜ばせる台詞だと気づくのには時間がかかった。
「やばい……くそかわいい、すぐいきそう」
「は、早くいってくださいぃ……」
「やだ、だめ。もっと楽しみたい。伊勢ちゃんもでしょ?」
「……っ、ちがいます」
「否定されると余計興奮しちゃう」
「へ、へんたい……」
結論から言うとその日俺たちはひたすら貪り合って夜を明かし、猿みたいってこういうことかと不健全な納得さえしてしまったのだった。
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