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第3-1話ミカルの狙い
臙脂色のソファへ俺が腰かけると、ミカルは当然のように隣へ座ってくる。
やけに距離が近い。俺を聖石で封じているからと侮っているのか? 甘く見られたものだ。
その気になれば勢いよく首を伸ばし、その首筋に噛みついて血を搾り取ることなど容易いこと。だが少しでも情報を集めたくて、俺は口を閉ざして話を待つ。
目を細めながら俺をまじまじと見た後、ミカルはようやく話し始めた。
「半ば強引な真似をして申し訳ありません。こうでもしなければ、落ち着いてカナイと二人きりで話すことなど叶いませんでしたから」
「俺と話だと? ずっといがみ合ってきた人間と魔の者が、何を話すと言うのだ?」
敵意を抑えぬ俺に対し、ミカルが小さく頷く。
「そう……私が生まれる遥か昔から、人と魔の戦いは続いてきました。元は魔の者も人だというのに──」
悲しげに伏せられたミカルの目に、俺は眉間にシワを寄せてしまう。
魔の者へ成り果てた俺への同情か? 不快でしかないな。
睨みつける俺の目と再び視線を合わせた時、ミカルは熱く真っすぐな眼差しで俺を射貫いてきた。
「吸血鬼の王である貴方の力をお借りしたい。どうか魔と人の戦いに終止符を打つため、私に協力して頂けませんか?」
「協、力?」
「私は個人的に、魔の者を人に戻す研究をしています。望む者には人としての生を……すべてがそれを望んでいないことは分かっています。それでも滅する以外の選択肢を作りたいのです」
どくり、と俺の胸が脈打つ。
人に戻れる──いや、今さら戻ってどうなると?
そもそも人の何が良い? 人は俺に何をした?
なぜ魔を無くすことを良しとする? 俺に救いの手を差し伸べ、受け入れ、居場所を与えてくれたのは、いつだって魔の者たちだったというのに。
沸々と込み上げる怒りで俺は食いしばった歯を剥き出し、拒絶を露にしてしまう。
協力なんてするものか! と怒鳴りつけようとした矢先、ミカルが話を続けた。
「もし貴方が協力して下さるなら、研究の結果が出るまで他の者には一切手出しをさせませんし、これから先の命の保証と、人に戻った後に生涯苦労しない生活を約束します。しかし、もし断ると言われるなら──」
「俺の腹に杭でも打ち込んで、長々と苦しめる気か?」
「別の魔の者に試薬を与えるまでです。貴方が体を張って守ろうとしていた者たちを、未だ我が退魔師協会の者たちが追っています。もう一人捕らえろと私が命じれば捕らえてくるでしょう」
……俺に拒む権利はないということか。
大きく息をついて怒りを逃がした後、俺はミカルから目を逸らす。
「好きにしろ。その代わり、他の者たちには手を出すな」
「約束しましょう。逃げたのは貴方の下僕と若い魔の者ばかり。見逃しても大局に影響はないでしょうし……」
不快な表情を保ちながら、俺は内心安堵する。
俺の目的はクウェルク様を逃がすこと。それが果たせるならば、この身が滅んでも構わない──ヒューゴを思うと、生きることに未練は滲むが。
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