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第6話捨て身の気配
『ミカル様は、なんであの吸血鬼と住むんですかぁ? 魔の者はみんなやっつけちゃうもんでしょ? 学のないアタシには、不思議でしょうがないですわ』
屈託なく笑う老女へ、ミカルが柔らかく微笑みかける。
『私は知りたいのですよ、魔の者という存在を……。そして分かり合い、ともに生きる術はあるかを探りたいのです』
『えぇ……嘘つかれて殺されちまいませんかねぇ?』
『その時はその時です。もう覚悟はできていますから。そうなったら──』
ずっとにこやかな聖人の顔を見せ続けていたミカルの表情が、妖しく笑う。
『──ともに逝くだけです』
ゾクリ、と。俺の背筋に悪寒が走る。
この男は本気でそうするつもりだ。
理性ではこんな奴に怯えるなどと憤慨するのに、本能が委縮する。
自分の身を一切守る気がない捨て身の者ほど怖いものはない。
ましてや俺を捕らえられるほどの力を持った男が、捨て身で俺を道連れにすることを考えている。よほどミカルに悟られないよう裏を掻き、入念に準備をし、決定的な隙を作らねば勝算はないだろう。
青ざめる俺のことなど知らぬ老女が、なぜか朗らかに笑った。
『ミカル様、まるでここで結ばれないからって心中する恋人たちみたいですなぁ』
……なんてひどい例えだ。屈辱だ。
『そうですか? ふふ、悪くないですね』
お前もお前でなぜ笑う? 否定しろ。意味ありげな顔をするな。冗談がひどすぎる。
こんな男に恐怖を覚えてしまう俺が惨めでたまらない。
蝶の体を借りることをやめないまま、俺は額を押さえながらうなだれる。
敵として対峙した時は、恐ろしく無駄がない冷静沈着な戦闘人形のような男だと思っていたのに。
戦いの場を離れたら、こんなに頭がどこか狂ったおかしな奴だったとは。
この男をまともだと思ってはいけない。
狂人と向き合う覚悟でいなければ。
そうこうしている内に、ミカルは老女と別れて屋敷の外へと出て行く。そして小さな厩舎に繋いでいた馬を走らせ、丘を下りていった。
恐らく俺を捕らえた報告をするために、退魔師協会の本拠地へ出向くのだろう。
追いかけていきたいところだが、蝶の体では馬の走りにはついていけない。それに場所は知っているが、下手に近づいて俺の魔力を察知されては困る。
「……仕方ない。今日は屋敷一帯の把握に専念するか」
ため息をつきながら俺は呟くと、改めて屋敷の中へと戻って探索を続けた。
どうやってミカルを出し抜き、ここを脱出できるだろうかと考えながら──。
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