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第15-2話クウェルクの狙い

 もし実体で話をしていたなら、クウェルク様は嘲笑を浮かべ、わざとらしげに抑揚をつけて話をされていただろう。  魔の者の王となって五百年。己に誇りを持ち、気高く生きておられる方だ。  他の同胞たちよりも魔の者という存在を、特別に思っているのは間違いない。  この方だけは絶対に人へは戻らず、魔の者としてあり続けるだろう。たとえ命を失うことになったとしても──。  ──クウェルク様を死なせたくはない。  絶対に王を守り、ここを抜け出さなければと俺は決意を固くする。  互いに思案し、沈黙が流れる。  しばらくして『うむ』とクウェルク様が話を切り出した。 『カナイの話を聞く限りだと、どうやらミカルはお主と特別な関係を結びたそうだな。わざわざ協会に逆らってまで、お主を私邸に囲っているのだしな。奴がそれを望むというなら、喜んで奴を受け入れて堕とせばいい』 『……と、申されますと?』 『ミカルを誘惑し、情を結べ。むしろ奴に人を捨てさせるんだ。人相手では味わえぬ快楽を重ね続ければ、それを欲して逆らえなくなる……本能には勝てぬのだよ、人というものは』  冗談にしては質が悪すぎる。本気ならば尚のことひどい話だ。  だがクウェルク様は本気だ。二人で逃げ切るためには、手段を選んでいられないということが十分に伝わってくる。  それでも俺の背筋に悪寒が走り、その道は避けたいと抵抗感を覚えてしまう。ただでさえ不本意に世話を焼かれ、ミカルの感触に翻弄されているというのに。情を結べばどうなってしまうか──。 『お主だけに苦労はさせん。私もビクトルを篭絡させ、我が意のままに従う忠実な僕にする。カナイには厳しい態度を見せておったが、二人きりの時は見た目が子供だからと情をかけてくれるような奴だ。契りを交わせば、すぐに心を許して我が手に堕ちるであろう』 『クウェルク様自ら、そのようなことを……』 『力を封じられているなら、他に有効そうな手段を使うしかあるまい? 体を許したところで、我らの中で何かが変わるはずもあるまい……それともカナイは誰かに操を立てておるのか?』  クウェルク様の言葉に、一瞬ヒューゴが頭を過る。  俺の忠実な僕。常に行動をともにし、俺を一番に考えて支え続けてくれる男。  交わったことはおろか、互いに想いを告げたことすらない。  それでも俺が何者かに体を許したと知れば、あの精悍な顔が悲しみに歪む気がした。  ……生きて再会を果たせねば、何をしようが意味はない。  弱き者が己よりも強き者を出し抜くためには、可能な限り犠牲を払う必要がある。  クウェルク様の命を拒むことはできなかった。 『そのような者はおりませぬ故……クウェルク様に従います』  己の覚悟を伝えながら、俺はより大きくざわつく背中の感覚に顔をしかめる。  嘆きそうになる心を必死に抑えながら──。

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