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第47話毒に美味しさを覚えて

       ふと目が覚めると、窓の外が白ばむ気配があった。  そろそろ夜明け。魔の者は眠りにつく時間。俺の体はまだ眠りが欲しいと、再び俺を眠りにつかせようと力を手放していく。  意識が途切れかけたその時、もぞり、と俺の頭の下から抜け出ていく感触があった。  思わず身じろげば、「あ……」とミカルが小さな声を漏らした。 「すみません、起こしてしまいましたか」  俺を抱き締めながら寝ていたミカルはが起きようとして、寝台から抜け出ようとしたところ。衣服は見当たらない。その肌を目の当たりにして、俺は睡魔に呑まれつつある頭でミカルと寝てしまったことを思い出す。  あれだけ激しく何度も交わった後とは思えないほど、俺の心は穏やかなものだった。  眠気が強くて口を開くのも億劫だ。俺は何も言わずもぞもぞと布団へ潜り込む。  俺が再び寝ようとしていることを察し、ミカルが気配を殺して上体を起こし、俺から離れようとする。  温もりが消える──咄嗟に俺はミカルの手首を弱々しく掴み、引き止めた。 「カナイ……?」 「……激しかったせいで、腹が空いた。少し血を吸わせてくれ」  本当は空腹など覚えていない。ただ人肌の温もりが離れていくのが嫌だっただけ。それを素直に言えるはずもなく、食事をしたいと嘘をついてしまう。  ミカルは俺の予定外な行動へ小さく吹き出す。布団へ入り直してから俺を抱き寄せると、自らの首筋へ俺を導いてくれた。 「どうぞ、飲んで下さい。できればこれから準備がありますので、加減して下さると助かります」  俺の本心を悟られぬよう、軽くミカルの血を吸い出す。  ねっとりと舌へ絡みつく濃厚な甘さ。そしてバラの香り──さらに飲み慣れてしまったのか、それとも頭が半分寝ているせいか、やけにミカルの血を美味しく感じる。  まるで何年も寝かせて芳醇さを濃くし、完熟させた果実の汁を加えた酒のような、美味なる味。  バラの香は魔の者にとって毒のはず。それを美味しいだなんて感じるとは……。  一線を越えて、俺の何かが壊れてしまったのだろう。そうとしか思えない。  ひと吸いだけで終えるつもりだったが、もう一度だけミカルへ吸い付く。  やはりミカルの血を美味しく感じる。それに胸の奥がやけに満たされるような気がする。  自分に何が起きているのか分からない。  だが今はこの温もりの中で眠りにつきたくて、ミカルの腕の中でまどろんでいった。

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