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第14話 重なり合う心

 一週間後、再び行われたグリスタの握手会。  ある決意をした友渕は、今までの握手会とは全く違う心持ちで、この場へやってきた。 「こんにちは、友渕さん」 「……っ」  他のファンにも見せるような、『アイドルの顔』をした陽一郎の笑みを目の当たりにし、友渕の心にチクリと痛みが走る。  距離を置かれていると、はっきり突きつけられた気がしてしまう。  だがここで怖気付いていたら、陽一郎の気持ちが自分に向くことは、もう二度とないだろう。  陽一郎を目の前にすると、言葉では伝えられないと思い、友渕はこの日のために手紙を書いてきた。 「握手しましょう?」 「陽一郎くん。今日は、プレボに手紙入れたんだ」  差し出された陽一郎の手を、友渕はそっと握る。  いつものオドオドとした様子とは違い、自分の気持ちを伝える決意をした表情をしている。  今までに見たことのない真剣な様子の友渕に、陽一郎の鼓動がドクンと跳ねた。 「え……」 「イベント終わったら、手紙を読んでほしい」  きっかけを作ってくれたのは、いつも陽一郎からだった。だが、今日は自分がきっかけを作る。 「俺、待ってるから」 「……っ!」  あの時、陽一郎が自分に言ってくれた言葉を告げ、友渕はその場を後にする。  陽一郎が何か言いたげにしていたが、友渕はあえて振り向かない。  今はまだ、伝えて良い時ではない。  イベント終了から数時間後。  友渕は会場から離れた、とある駅にある公園へとやってきた。駐車場もあり、家族連れやカップルに人気の大きな公園だ。  しかし冬の冷たい風が吹く夜に、長い時間留まっている人は居ないようだ。  ポツリポツリとあった人影や車も、いつの間にか無くなり、ここに居るのは友渕一人になっていた。  ──陽一郎くん、来てくれるかな……。いや、俺は待つ! 何時間だって待つ!  相手が来てくれるかどうかも、全く分からない待ち合わせ。だが友渕は何時間でも待つつもりで、ここまでやってきた。  陽一郎へ渡した手紙には、『今夜話したいことがあるので、この公園へ来てください』とだけ書いていた。  友渕に対する陽一郎の気持ちが、まだ残っているのであれば、手紙を読んで、ここへ来てくれるかもしれない。  一時間ほど経っただろうか。コートやマフラーをしていても、身体の芯まで冷えてしまいそうだ。 「手袋も持ってくるんだった……」  友渕は若干後悔しながら、冷えた手をコートのポケットに入れて、その場に留まる。  そんな時、一台の車が駐車場に入ってきた。  ヘッドライトで照らされ、友渕は眩しさに腕で顔を覆う。すぐにドアが勢いよく閉まる音がして、静かな公園に声が響いた。 「友渕さん!!」 「え……」  走ってくる足音が聞こえたかと思った瞬間、眩しさが遮られる。  慌てて顔を上げると、今にも泣き出しそうな表情の陽一郎がいた。 「よっ、陽一郎くん……!」 「こんな寒い場所で、ずっと待っててくれたんですか?」 「うん……」  あれほど眩しかったヘッドライトの灯りは、陽一郎の大きな身体で遮られ、後光のように射している。  まるで、ステージ上でライトに照らされているようではある。だが、心持ちが全く違う。自分のためだけに、今ここに存在している陽一郎が、友渕はなによりも愛おしい。 「友渕さん、俺……」 「陽一郎くん、待って。俺の話を聞いてほしい」 「はい……」  口を開きかけた陽一郎を、友渕は止める。ここは自分が切り出さなければいけないところだ。 「陽一郎くん、この間はごめんなさい。陽一郎くんがどんな思いで、俺のことを誘ってくれたのか、気づくことができなかった」 「友渕さん……」 「あの時……二人きりの時間を過ごせて、すごく嬉しかった。なのに俺が怖気付いたせいで、陽一郎くんを傷つけた。その……謝っても許してもらえないかもしれないけど、謝らせてほしい」  友渕は、深々と頭を下げて謝罪した。  そんな友渕の言葉に、陽一郎は首を何度も横に振り、その言葉を否定しようとする。 「元はといえば、友渕さんが俺を応援してくれてる気持ちを、利用したのがいけないんです」 「ちっ、違うよ陽一郎くん!! 俺がもっと、自分の気持ちに正直になっていたら……!」 「アイドルやってるくせに、大切なファンの友渕さんにあんなことして。それで、嫌われたと思って……」  唇を噛み締め、涙を堪える陽一郎。  友渕はたまらず、陽一郎の大きな身体に抱きついた。 「俺が、陽一郎くんを嫌いになるはずない!!」 「……──っ!」 「陽一郎くんが、大好きです……っ! アイドルとファンじゃなくて、こっ、恋人として! 俺と付き合ってください!!」  涙で顔をぐしゃぐしゃに濡らし、友渕が自分の気持ちを告げる。  その瞬間、陽一郎の目から涙が溢れ、友渕をギュッと抱き締めた。 「俺、友渕さんが大好きです! ずっと……ずっと、言いたかった……!」  そう言いながら流れている二人の涙は、お互いにとって世界で一番綺麗な涙であった。

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