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第16話 ずっと準備してきた
下着だけを身につけてベッドに上がると、陽一郎が口を開いた。
「俺、直樹さんとこういうことできる日のために、ずっと準備してたんです」
「……くぅ〜〜〜っ!!」
眉を下げて、照れ隠しをするかのように頬を掻く陽一郎。
そんな表情を目の当たりにした友渕は、理性がぶっ飛びそうになり、涙を流しながら天を仰いだ。
推しが、愛する人が、自分を想って抱かれる準備をしていたというのだ。嬉しくないはずがない。
「あの動画、見てくれたならバレてるかもしれないですけど……。『ちんぽ挿れてほしい』なんて言っちゃったし」
「んん!? そんなこと、どこで言ってた……!?」
動画を何度も見返していたが、友渕の記憶にそのようなシーンはなかった。その理由は自慰のしすぎで、音声を聞き逃しているだけなのである。
「え!? あのディルドハメたやつですけど……」
陽一郎はバッグから自分のスマホを取り出し、裏チャンネルのサイトにアクセスする。そして例の動画を再生すると、視線を逸らしてスマホを胸の前で掲げた。
動画は陽一郎が達した後、ベッドに倒れ込むシーンから始まり、最後のシーンとなった。
『あの人にちんぽ挿れてもらえたら、どれだけ気持ちいいんだろ……』
「んんんん!? この動画何十回と見てるのに、なんで知らないんだ俺は!?」
「な、何十回も見たんですか!?」
「陽一郎くん、『あの人』って」
「もちろん、直樹さんのことです……」
顔から火を噴き出しそうな様子で、真っ赤になりながらスマホで顔を隠そうとする陽一郎。
「かっ、かわい……!!」
スマホでは面積が小さすぎて、隠しきれないにもかかわらず、そんな可愛らしいことをしてくる陽一郎が愛おしい。
陽一郎が、自分で自分のすけべすぎる動画を見せているという状況に対しても、友渕は興奮を抑えきれない。
「この動画と言えば、聞きたかったことがあるんだけど……」
「何ですか?」
キリッと表情を切り替えた友渕に、陽一郎も固唾を飲む。
「陽一郎くんがケツ毛脱毛してなかったのを見て、すっごく嬉しかった。これって俺しか知らないんだよね?」
「……はははっ! 何を言われるんだろうって思ったら。もちろん、直樹さんにしか見せたことないですよ」
真剣な表情から出てくるような内容ではなく、陽一郎は思わず吹き出してしまう。
だが友渕にとって、自分だけしか見られない陽一郎の一部があるという事実は、この上ない幸せなのだ。
「俺にとって大事なことだから、陽一郎くんにも知ってほしくて……!」
「そうだったんですね。本当は全身脱毛するつもりだったんですけど……。尻までやるのは、恥ずかしくてやめちゃったんです」
「かっわい……! 俺、陽一郎くんのそのギャップも大好きだから、これからもケツ毛は脱毛しないでほしい!」
「直樹さんがそう言うなら、これからもこのままでいます」
友渕が好む自分でいたい。それは陽一郎の願いである。
またひとつ、友渕が自分を好きでいてくれるポイントを聞くことができて、自然と笑みが溢れてしまう。
友渕も、陽一郎が自分の好みに合わせてくれるという事実に、ニヤニヤとした笑みが止まらない。
「へ、へへ……嬉しい」
「直樹さん、あの……お風呂での続き、しませんか?」
「……っ! う、うん……!」
スマホを置いた陽一郎は友渕の手を取り、そっと握りながら言う。
「ここ、どうぞ」
「しっ、失礼します……!」
陽一郎がゆっくりと開いた脚の間に、友渕はおずおずと入り込む。
「俺も、ちょっと緊張してます。ほら、ね?」
「本当だ……」
握られた手を陽一郎の左胸に当てられ、早くなった鼓動を手のひらに感じる。
そして指が絡むように両手を握られ、そっと目を閉じた陽一郎に、友渕は興奮して息が荒くなってしまう。
「陽一郎くん、キス……してもいい?」
「はは、してください」
ここで何も言わずにキスをすることができたら、友渕はスマートなところを見せられたのだろう。だが、陽一郎は友渕がそうしたことを出来ないところも好きなのだ。
友渕は膝立ちになり、ゴクリと喉を鳴らした。そして、意を決して唇を重ねた。
「ん……」
陽一郎の鼻から抜けるような吐息に、友渕は気持ちを昂らせる。
舌を絡めてもいいのか迷っていると、陽一郎の舌が友渕の唇を掠めた。
自分が欲望のままに求めても、陽一郎は受け止めてくれる。そう自分に言い聞かせた友渕は、そっと舌を絡めた。
「んん……っ♡」
上あごを舐めてみると、陽一郎の喘ぎが聞こえたのと同時に、握られた手に力が入る。
陽一郎に自分が快感を与えられていることに、友渕は喜びを感じる。
絡まる舌から伝わる刺激、耳に入ってくる陽一郎の吐息や喘ぎ、繋がれた手から伝わる体温。そのどれもが、友渕を興奮させた。
キスをしているだけで、陽一郎はこんなにも友渕の気持ちを昂らせる。この先へ進んだら、どうなってしまうのだろうか。
そっと唇を離すと解けた舌の先に、つぅぅ……と糸が引いて切れた。
「陽一郎くん、かわいい。だ、大好き……!」
「は……ぁ♡直樹さん、大好きです」
友渕は堪らず陽一郎に抱きつくと、思いの丈を伝える。
そんな真っ直ぐな気持ちをぶつけられ、陽一郎はゾクゾクと身体を震わせた。
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