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 ――さっきの今で、やりづらいなあ……。  百合人はクラスの男子の中でも、かなり小柄な方だ。似たような体格同士で組むとなると、同じような身長の福井と当たることが多いのだ。とはいえ、福井も根は真面目だ。乱暴な真似はされたことがない。百合人は、気を取り直して礼をした。  練習が開始すると、福井は早速技をかけてきた。百合人は、あわてて受け身のやり方を思い出そうとした。  ――ええと、前回り受け身は……。  しっかり受け身取れよ、と教師がわめく。体を回転させて受け身を取ろうとしたその時、百合人は違和感を覚えた。  ――あれ、違った……?  教師と福井の、焦ったような声が聞こえる。次の瞬間、百合人は床に倒れ込んでいた。  百合人は、すぐに病院に運ばれた。着地の際に鎖骨を強打し、骨折したのだ。幸いにも、手術はスムースにしてもらえることになり、一週間も経たずに退院できるとのことだった。  入院当初は、ちょっとした騒ぎだった。両親はすぐに駆けつけ、教師や親しい友人らも見舞いに来てくれた。だが、それもすぐに落ち着いた。部屋は四人部屋だが、ベッドは二つしか埋まっていないので、静かすぎて寂しいくらいだ。ちなみにもう一人の患者は無愛想な中年男で、百合人には無関心だった。  暇になった百合人は、あれこれ物思いにふけった。  ――福井の奴、来ないのかよ。やっぱ、嫌な奴……。  当事者である彼だけが、一度も病室に姿を現さないのだ。今回の事故は、百合人が受け身の取り方を間違えたせいで、福井に責任はない。しかしそうはいっても、見舞いにも来ないなんて、と百合人は内心毒づいた。  ――やめやめ。あんな奴のこと、考えるのは止そう。  百合人は瞳を閉じて、南原に思いを馳せた。学校を休む間、顔を見られないのは辛い。入院するとわかっていたら、自室にある秘蔵写真を持ってきたのだが。急なことで、それどころではなかったのだった。

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