8 / 73
”
「ガーデンデザイナー?」
聞き慣れない言葉だったらしく、南原が首をかしげる。
「うん。庭を設計したりデザインしたりする仕事。僕、植物が好きだから、ずっと憧れてて。そのために、建築学部に進もうと思ってるんだ。絵はただの趣味」
こんな話は、親や親しい友人にも話したことがない。花が好き、などと言ったら軟弱だと思われそうな気がしたのだ。それなのに、南原にはあっさり話せてしまった。そんな自分に驚く。
「もったいないな。あれだけ描けるのに……。ていうか、花岡、めちゃくちゃ将来のビジョンが具体的じゃん。むしろそっちを尊敬するわ」
意外にも南原は、真剣に相づちを打ってくれた。馬鹿にする様子もない。
「いや、南原だって……。病院、継ぐんだろ?」
「俺はただ、敷かれた人生のレールの上を走ってるだけ。自分で何でも決めてるお前とは違う」
南原は、やや気障な台詞を吐くと、手にしていた紙袋を百合人に差し出した。
「今の話を聞いて安心した。俺の見舞いの品、間違ってなかったみたいだな」
「ありがとう……。開けてもいい?」
「ああ」
何だろう、とドキドキしながら袋を開ける。中から出てきたのは、プリザーブドフラワーだった。――赤いゼラニウムの。
ともだちにシェアしよう!