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「ガーデンデザイナー?」  聞き慣れない言葉だったらしく、南原が首をかしげる。 「うん。庭を設計したりデザインしたりする仕事。僕、植物が好きだから、ずっと憧れてて。そのために、建築学部に進もうと思ってるんだ。絵はただの趣味」  こんな話は、親や親しい友人にも話したことがない。花が好き、などと言ったら軟弱だと思われそうな気がしたのだ。それなのに、南原にはあっさり話せてしまった。そんな自分に驚く。 「もったいないな。あれだけ描けるのに……。ていうか、花岡、めちゃくちゃ将来のビジョンが具体的じゃん。むしろそっちを尊敬するわ」  意外にも南原は、真剣に相づちを打ってくれた。馬鹿にする様子もない。 「いや、南原だって……。病院、継ぐんだろ?」 「俺はただ、敷かれた人生のレールの上を走ってるだけ。自分で何でも決めてるお前とは違う」  南原は、やや気障な台詞を吐くと、手にしていた紙袋を百合人に差し出した。 「今の話を聞いて安心した。俺の見舞いの品、間違ってなかったみたいだな」 「ありがとう……。開けてもいい?」 「ああ」  何だろう、とドキドキしながら袋を開ける。中から出てきたのは、プリザーブドフラワーだった。――赤いゼラニウムの。

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