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 百合人は、もう一度男の方を見上げた。直感的に、彼の仕業な気がした。だが、まさかそうは言えない。百合人は、誤魔化すことにした。 「急に、手術したところが痛み出したんだ。ごめんな、変なタイミングで」 「いや……。術後だもんな、俺も無理させて悪かった。痛み止めはもらってるか? あんまりひどいなら、点滴してもらうといいぞ?」  南原は、医者の息子らしいことを言った。もらってる、と適当に返事すると、彼は安心したようにうなずいた。 「長居すると疲れるだろうから、俺そろそろ帰るな。でも、今日はよかった。嬉しい告白が聞けて」  にっこり笑って、南原が立ち上がる。そのまま病室を出て行くかと思いきや、彼は名残惜しそうに百合人の方を振り返った。 「また来るからな。でも……」  南原が身をかがめ、顔を近づけてくる。再び目を閉じて応えようとした百合人だったが、次の瞬間、重々しい声が響きわたった。 『花岡百合人。お前にキスという行為はできない。私が魔法を解くまではな』  声の主は、あの男だった。

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