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 ――キスという行為ができない……? 魔法を解くまでは……?  荒唐無稽すぎて、にわかには信じられない。しかし百合人が思い出したのは、さっき自分を襲った激痛だった。  ――まさか、キスしようとしたら、またあんな目に……?  百合人は、とっさに南原を押しのけていた。南原が、顔をくもらせる。 「ごめん。まだ早かったかな? 俺、つい浮かれちゃって……」 「う……、ううん!」  百合人は、大あわてで否定した。嫌なわけがない。ずっと憧れていた相手なのに……。 「まだ体が本調子じゃないからさ。また、学校でな?」 「わかった。お大事にな」  南原はおとなしく帰って行ったが、その横顔は沈んでいた。百合人は、泣きたくなった。  ――絶対、傷つけたよな……。 「あんたのせいだな?」  百合人は、キッと男をにらみつけた。 「あんた、何者なんだよ? 昔、夢に出て来たろ。幽霊かなんかか?」 『幽霊だと? 失礼な』  男は眉をつり上げると、百合人のベッド脇に立った。腕組みしながら、見下ろしてくる。その態度は、尊大だった。 『私を知らぬか? 我が名はアポロン。太陽の神だ』  ――アポロン? 太陽の神?  百合人は、目をぱちくりさせた。ギリシャ神話に、そんな名前の神がいたのは知っているが。でもどうしてまた、現代の日本に。それに、アポロンの絵や像は見たことがあるが、目の前の男とは微妙に違う気がした。 「えーと。アポロン、さん。あなたはなぜここに? 神話の時代は終わったはずでは?」  一応は神と名乗っている以上、百合人は敬語を使うことにした。

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