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「は……? カリスタ、さん……?」
聞き覚えのない名前に、百合人は面食らった。アポロンは仏頂面で、それ以上話してくれる気配はない。ひょっとして、と百合人は思った。あの時キスしていた相手のことだろうか。
「なるほど! わかりました。僕がのぞいたせいで、彼女に逃げられちゃったってことですね」
百合人は、走り去って行った女のことを思い出していた。
「それは、すみませんでした……。でも、追いかければよかったのでは? あなた、神様なんだし」
『カリスタは、恥ずかしがりやなのだ! キスを他人に見られたなんて、とひどくうろたえてていた。そしてあれ以来、会ってくれなくなってしまったのだ』
なぜ自分が罰を与えられたのかが、大体わかってきた。あの時アポロンが告げた台詞が、その魔法だったのだろう。
「はあ……。ちなみにカリスタさんも、神様ですか?」
『カリスタは、人間の娘だ。時々地上に降りては、ああやって可愛い娘たちと恋をするのが、私の楽しみだったというのに。よくも、その楽しみを奪ってくれたな』
現代のギリシャ娘が、キスシーンを人に見られたくらいでパニックになるだろうか。百合人は、内心疑問を抱いた。体よくふられただけのような気もするが、そんなことを言えば、もっと恐ろしい罰を与えられそうだ。どう返そうか迷っていると、アポロンはしゅんと下を向いた。
『追い回せば、嫌われるやもしれぬと思ってな。泣く泣く諦めたのだ』
「あー、月桂樹になっちゃった女性もいましたもんね」
アポロンに追い回され、最後は月桂樹に姿を変えたダプネといえば、ギリシャ神話の有名なエピソードだ。だがそれは地雷だったらしく、アポロンは血相を変えた。
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