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『ああそれから』
アポロンは、平然と続けた。
『私やこの魔法のことは、誰にも言うでないぞ。そんなことをすれば、この魔法は一生解けなくなる』
「……言われなくても、言いませんよ。頭がおかしいと思われるだけでしょうし」
百合人は、ぽつりと言った。じわり、と涙がにじむのがわかる。
――せっかく、大好きな南原と両想いになれたのに。キスもできないなんて……。
『そんなに、あの男が恋しいか?』
ふと、アポロンの口調が和らいだ。
『お前は、男が好きなのだな。この日本という国、いろいろ見て回ったが、男同士の恋愛はあまり見かけないようだが』
「あることはありますけど。あんまりおおっぴらにできないっていうか」
『難儀なものだな』
アポロンが、不思議そうな顔をする。
「ギリシャ神話の世界とは違いますから。……まあアポロンさんには、関係ないことでしょうけど。女性専門ですもんね」
それほど神話に詳しくない百合人でも、アポロンが多くの女性と浮名を流したことくらいは知っている。だがアポロンは、ふっと顔をくもらせた。
『……そんなことも、ないがな。私が真剣に想っていたのは……』
その時、病室のドアが開いた。
「花岡くーん。変わりはないかな?」
陽気な声を上げながら入ってきたのは、若い女性看護師だった。すかさずアポロンが、目を留める。
『可愛らしい娘だ』
テキパキと働く看護師を、アポロンは楽しげに見つめている。人に魔法をかけておいていい気なものだ、と百合人は深いため息をついたのだった。
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