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”
翌日、百合人は退院した。両親は仕事で来れないので、百合人は一人で荷物をまとめた。
「花岡君、忘れ物はない?」
そう尋ねるのは、昨日の看護師だ。まさか自分が神様に見初められたなどとは、夢にも思っていないのだろう。大丈夫です、と百合人は言葉少なに答えた。
「お大事にね!」
明るく見送られ、百合人は病室を出た。そこで、そういえば福井も同じ病棟にいるのだった、と思い出す。
――寄ってくべきかな? でも、向こうだって僕の見舞いに来なかったわけだし……。
そこで百合人は、昨日の南原の言葉を思い出した。
『ああいう態度を取るのは、お前に構ってほしいから』
恋敵 、とも言っていた。つまり福井もまた、自分を好きなのだろうか。
――なおさら、顔合わせづらいんだけど……。
悩みながら男子トイレに入った百合人は、ドキリとした。そこにはまさに、福井がいたのだ。
「あ……」
二人は、同時に声を上げた。そして、同時に沈黙する。先に言葉を発したのは、福井の方だった。
「花岡、悪かった! 怪我させちまって」
「い、いや! あれは、僕が受け身を間違えたんだし。それに、お前こそひどい怪我じゃん」
百合人は、福井の腕を指さした。大がかりに吊っている。
「あー……」
福井は、気恥ずかしそうな顔をした。
「みっともねえな。南原にやられたんだよ……。てか、もう知ってるよな? 彼氏なんだから」
「彼氏!?」
唐突なワードに、百合人は仰天した。すると福井は、思いがけないことを告げた。
「だって、付き合い始めたんだろ? 南原、昨日俺の病室に来て、宣言してたぞ。花岡とは両想いだとわかった、付き合うことにしたって」
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