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「南原、どうしてここに……」 「退院の手伝いに来たんだよ。で、今の言葉はどういう意味だ? 昨日お前は、俺を好きって言ってくれたよな? あれは嘘か? 両想いだと浮かれてたのは、俺だけなのか?」  南原が、ずいと近づく。どうしよう、と百合人はうろたえた。  ――好きに決まってる。でも……。 「止せよ。花岡、怖がってんだろうが」  福井が、二人の間に割り込む。南原は、血相を変えた。 「花岡、何で黙ってんだよ! もしかして、福井と二股かけようってのか?」 「ち、違う!」  とんでもない誤解に、百合人はぎょっとした。 「だったら、何でこいつに、俺と付き合ってない、なんて言うんだよ! チラッと聞こえたけど、楽しそうに話もしてたし……。どっちにもいい顔してんじゃねえよ!」  返す言葉が、見つからない。黙り込む百合人を見て、南原は顔をゆがめた。 「……そっか。だから昨日、キスさせてくれなかったんだな。花岡にとって俺って、その程度だったんだ」 「それは……」   ――僕だって、キスしたかったのに。  喉元まで、魔法の話が出かかる。だがそこで百合人は、はっとアポロンの言葉を思い出した。 『私やこの魔法のことは、誰にも言うでないぞ。そんなことをすれば、この魔法は一生解けなくなる……』  南原は、スッと踵を返した。 「悪いけど、もう無理だ。俺、花岡の考えてること、わかんねえ」  そのまま彼は、トイレを出て行った。

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