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フェーズ2:大学時代(前編)

 それから三年の月日が流れた。大学二年になった百合人は、家庭教師のバイト先へと向かっていた。  高校を卒業した後、百合人はかねてからの志望どおり、都内にある大学の建築学部へと進学した。卒業後は、設計事務所への就職を希望している。そこで経験を積んだ後、独立してガーデンデザイナーとなるつもりだ。  ――とにかく勉強とバイトだけをして、大学四年間をやり過ごそう。  百合人は、そう考えていた。もう、恋なんてこりごりだ。建築学部は男の割合が多いが、幸いにも身近に、好みのタイプの男子学生はいなかった。適当に友人付き合いをこなしながら、百合人はどうにか、これまでの大学生活を切り抜けてきたのである。 「カナちゃん、期末テストはどうだった?」  生徒宅に到着すると、百合人は教え子のカナに声をかけた。数学が大の苦手という、高校二年生である。  バイト選びにも、百合人は神経を使った。恋愛に発展することがないよう、人と接することが少ない家庭教師に決めたのだ。派遣センターに登録してからは、女子生徒の案件を選んで応募した。当初は、難航した。女子生徒の親の多くは、女性教師を希望したからだ。ようやくゴーサインを出してくれたのが、カナの家庭だった。 「もうバッチリですよ! 追試、ギリ免れましたもん!」  カナは、あっけらかんと答えた。もう少し頑張ってほしかったところだが、それでも以前の彼女に比べれば、大進歩だ。適当に褒めてやりながらテストの復習をしていると、ノックの音がした。いつものように、母親がお茶を持ってきたのだろう。気軽に席を立った百合人だったが、ドアを開けたとたん、その場に硬直した。立っていたのは、見知らぬ若い青年だった。

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