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”
「君が、花岡先生?」
青年が、眉をひそめる。ほっそりした長身で、顔立ちは目鼻立ちが整い、すっきりした印象だ。頭も良さそうだが、百合人は彼に、どことなく冷たい雰囲気を感じた。
「はい。ええと、あなたは……」
「あ、先生、会うの初めてでしたっけ?」
百合人の困惑に気づいたのか、カナが駆け寄ってきた。
「紹介しますね! うちのお兄ちゃん。今大学三年生なんです」
兄がいたなど、初耳だ。取りあえず、百合人はぺこりと頭を下げた。
「初めまして。カナさんに数学を教えている、花岡百合人といいます。○○大学建築学部二年です」
「兄の僚介 です。よろしく」
僚介は、同じく都内にある大学の名前を告げた。偏差値が高いことで有名な大学だ。国際学部だという。
――何で今まで会わなかったんだろ? ていうか、お兄さんがいるなら、彼に教わればいいのに……?
すると、百合人の疑問を察したかのように、カナが口を挟んだ。
「お兄ちゃん、この一年留学してたんですよ。久々に帰ってきたんだよね?」
「ああ。一年で、こんなにお前の成績が下がったとは思わなかったぞ。全く……。花岡先生、受験までよろしく頼みますよ」
僚介は、妹と百合人を見比べると、そう告げた。ひどい言い方~、とカナが頬を膨らませる。百合人がはいと答えると、僚介はそれ以上干渉することなく、あっさりと去って行った。だが百合人は、彼の怜悧な眼差しが、目に焼き付いて離れなかった。
一時間後、授業を終えた百合人は、カナと母親に挨拶をして家を出た。だが、外に出た百合人は驚いた。一台の車がスタンバイしていたのだ。運転席にいるのは、僚介だった。
「お送りしましょう」
僚介は、こともなげに言った。
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