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”
――無理に恋しなくてもいい?
目からうろこが落ちたようだった。大学の友人と話せば、すぐに恋愛の話題になる。同性愛者か異性愛者かという違いはあっても、恋人は作って当たり前、という雰囲気があった。それなのに自分はキスができない身だと、百合人はずっと葛藤を繰り広げてきたのである。僚介の言葉は、まるで差し伸べられた救いの手のようだった。
「とはいっても、欲求は発散した方がいい」
僚介が、こともなげに続ける。いきなり露骨な話題にシフトしたことに、百合人は戸惑った。
「恋はしなくても、それは重要なことだからね。というわけで、ワンナイトの相手を探すのはどう?」
「いや、それは……」
それこそキスすら未経験の百合人にとっては、高すぎるハードルだった。だが僚介は、けろりと続けた。
「百合人君は真面目そうだから、抵抗あるかもしれないけどさ。気軽に付き合えばいいんだよ。ゲイの出会いの場って、結構あるよ? SNSやゲイバー、あとはハッテン場とかさ。そういう所で、後腐れのない相手を見つければいいんだよ」
「はあ……」
最初は突拍子もないと感じた僚介の意見だったが、百合人の心は次第に動き始めた。性的欲求を満たしたいからではない。いつまでも南原を想い続けていては、自分は前進できないと思ったのだ。彼を忘れるきっかけになるのなら、それもアリな気がしてきた。
――相手もそのつもりなら、こっちも罪悪感を抱かずに済むだろうし……。
「おっと、もっと話していたいけど、時間が無くなってきたな」
僚介は、チラリと時計を見た。
「悪いけど、この辺でいいかな? この後バイトなんだよね」
自宅はもう目の前だ。はい、と百合人はうなずいた。
「バイトって、何されてるんですか」
「ピアノバーのバーテン。よかったら百合人君も、遊びに来なよ」
僚介は、百合人に店のカードを手渡した。場所を見て、百合人はおやと思った。僚介宅を挟んで、百合人の自宅とは真反対の位置だったのだ。
――この辺に用があるって言ったのは、嘘か……。
わざわざ送ってくれ、相談にも乗ってくれた。それだけで百合人は、じわりと胸が温まるのを感じたのだった。
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