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 その翌日、百合人は落ち着かない気分でカナを教えていた。  昨日の夜百合人は、早速僚介が言っていた出会いの場を探してみたのだ。とはいえ、一人で足を踏み入れるのは、やはりためらわれた。  ――僚介さんが付いて来てくれれば、安心だけど。でも、さすがに頼めないよな……。  小学生ではあるまいし、恥ずかしぎる。第一、厚かましいと思われるだろう。そういえば僚介自身は、どこで相手を見つけているのだろう。一人でそういう場を訪れるのだろうか。  百合人は、僚介が言い寄る男たちをスマートにかわしている光景を想像した。大人びた雰囲気を持つ彼なら、きっと様になるだろう。百合人は、思わず顔を赤らめた。  ――大人っぽいっていえば、南原もそうだった。僚介さんて、ちょっと似てるかも……。 「花岡先生! この問題、どうしてもわかんないんですけど」  カナの苛立った声で、百合人ははっと我に返った。彼女は、まだかとばかりに時計を見上げている。気づけば授業の終了時刻だった。 「あ、ごめん。じゃあ次回は、その問題の解説からね」  やっと解放された、とばかりにカナが笑みを浮かべる。宿題を指示すると、百合人はそそくささと席を立った。  だが、カナの部屋を出た百合人は、あっと声を上げそうになった。部屋の前には、僚介の姿があったのだ。まるで、授業が終わるのを待っていたかのようだった。 「百合人君、今少し話せる?」  僚介が、小声でささやく。はいと答えると、僚介は百合人を自室へ連れて行った。部屋には、語学の専門書が山と積まれていて、百合人は圧倒された。

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