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”
――すごいな。やっぱり僚介さんて、頭いいんだ……。
感心しながら部屋の中を眺めていると、僚介は何やら焦った様子で尋ねてきた。
「昨日の話だけど。百合人君、もうどこか試しちゃった? 出会いの場」
「いえ……。調べてはみましたが、勇気がなくて」
笑われるかな、と思いつつおそるおそる答える。すると僚介は、意外にも安堵の表情を浮かべた。
「ああ、それならよかった……。実は僕、後悔したんだよね。バーだのハッテン場だの、つい口を滑らせちゃったけど、百合人君みたいな初心者には危険かなって。レイプとかも、起きないわけじゃないし」
レイプ、と聞いて百合人は身がすくむのを感じた。
「うかつなことを助言しちゃったなあって、反省してたんだ。それを訂正しようと思って、今日待ってた」
「わざわざ、ですか?」
それで、授業が終わるのを待ち構えていたのか。百合人は、僚介の律儀さに心を打たれた。
「言い出したのは僕なんだから、責任を持つのは当然だよ……。初めてなら、そうだな、アプリがいいと思う」
「アプリですね? 早速、登録してみます。何ていう名前ですか?」
僚介はアプリ名を告げたものの、勢い込む百合人を見て、不安そうな顔をした。
「わかってると思うけど、本名や個人情報につながることは、書き込んじゃダメだよ? ああ、使い方をレクチャーしたいけど、もうバイトの時間だな。今日は、早番なんだよ」
「あ……、じゃあ」
百合人は、良い案を思いついた。
「バーにお邪魔してもいいですか? ピアノバーって、面白そうだし。アプリのことは、バイトが終わられてから教えてください」
ピアノなんて、興味はない。百合人は、僚介がバイトしている所を、単純に見たかったのだ。幸いにも僚介は、あっさり了承してくれた。
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