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「僚介さ……」  体温が上昇していくのがわかる。脳裏には、僚介が二度目の恋の相手か、というアポロンの台詞が蘇っていた。だが僚介は、こう続けた。 「きっと、辛かったんだよね。でも、早く忘れた方がいい。そのためにも、アプリの使い方を説明してあげるよ」  ――何だ。  百合人は、早とちりした自分が恥ずかしくなった。僚介は、ただ自分を慰めてくれているだけだ。そんなことくらい、わかっていたはず……。 「僕らみたいな人種の恋愛って、難しいよね。相手が男を受け入れるとは、限らないし……」  ノンケに振られたとでも想像しているのだろうか。そんなことをぼやきながら、僚介はメモにアプリ名を書くと、百合人に手渡した。 「百合人君には、これがいいかな。同年代の男性がたくさん登録しているし、安全性も高い。かといって、真剣な婚活目的でもないだろう?」  そうですね、と百合人はうなずいた。今自分が探すべきなのは、南原を忘れるための、遊び相手だ……。 「だったら、これが一番だ。僕も使ったことがあるけど、お勧めだよ。さ、インストールしてみて」  僚介の指示に従って、百合人はアプリをインストールすると、プロフィールを入力した。 「写真は……、百合人君は可愛いから、そのままでもいけそうだけど。顔が明るく見えるよう、少しだけ加工してみようか」  僚介は、細やかにアドバイスしてくれた。下を向いてスマホを操作している彼の顔を、百合人はこっそり見つめた。僚介は、どんな風にこのアプリを使っていたのだろう。格好良く、一夜限りの恋愛を繰り返していたのだろうか。そんな予感がした。一人の男に縛られるのは、クールな彼には似合わない気がした。

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