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それから一週間後、百合人は居酒屋の個室で、一人の男と向かい合っていた。ゲイ向けマッチングアプリで出会った会社員、ユウイチである。年齢は二十七歳と、百合人よりやや年上だ。
アプリを始めてから、百合人は多くの男性からアプローチされた。だが、いくら遊び相手といっても、露骨に下心むき出しの男には抵抗を覚えた。その点ユウイチは、プロフィールの文章といいメッセ―ジといい、実に紳士的だったのだ。穏やかで優しそうな風貌にも、好感を持てた。こうして数回のやり取りの後、百合人は彼と、都内の居酒屋で会うことに決めたのだった。
――やっぱり、僚介さんのアドバイスは的確だったな……。
百合人は、チラとそんなことを思った。何から何まで初めての百合人に、僚介は細かく助言してくれた。ユウイチと会うと告げた時、落ち着いて話せるよう個室のある店がよい、と入れ知恵したのも彼だ。
「ヒナタ君は、絵が好きなんだっけ? プロフに書いてたよね」
ひととおり互いの話をした後、ユウイチは思い出したように言った。ヒナタ、というのは百合人のアプリ上のネームである。
「俺は、絵ってよくわからないなあ。楽器なら得意なんだけど。特にギターが好きでね」
楽器と聞いて、百合人はアポロンのことを思い出した。まだ僚介の店で、ピアニストを続けているのだろうか。するとユウイチは、こんなことを言い出した。
「どう、これから俺ん家へ来ない? 聴かせてあげるよ」
「家、ですか」
さすがに、それはためらわれた。場所の相談をしていた時、僚介がこんなことを言っていたのを思い出したのだ。
『いくら落ち着いて話せると言っても、自宅は危険だ。仲間が隠れている場合があるからね』
複数にレイプされるケースもある、と言われて、身がすくんだものだ。ユウイチは、そんな百合人の思いに気がついたようだった。
「あー、警戒させちゃったかな? じゃあホテルはどう? そのつもりはあるんだろう?」
テーブル下でそっと太腿に手を這わされて、百合人はドキリとした。確かに、初体験をしたい、的なことを言ったのは事実だ。
――ホテルなら、仲間がいる可能性はないか……。
勇気を、出さねば。百合人は、首を縦に振っていた。
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