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 僚介が、息をのむ。百合人は、ぎゅっと彼に抱きついた。 「僕、間違ってました。抱いてくれる相手なら、誰でもいいって。それで、初恋が忘れられるならって。……でもやっぱり、誰でもいいわけじゃなかった。僕が抱かれたいのは、僚介さんです」 「百合人君、それは……」  僚介は、戸惑っている様子だ。百合人は、必死にすがった。 「ダメですか? 僕は僚介さんのタイプじゃないですか?」 「そういうことじゃなくて……」 「僚介さんだって、あのアプリを使ってたってことは、行きずりの男性もアリなんでしょう? だったら、お願いです。一度だけ僕の相手を……」  その時だった。鋭い男の声がした。 「僚介! お前、何やってんだ!」 「百合人君」  焦ったような声と共に、僚介は百合人の体を、乱暴に引き離した。彼は、ひどく青ざめた表情で、百合人の背後を見つめている。おそるおそる振り返れば、険しい顔をした男が立っていた。年齢は、僚介と同じくらいか。精悍なタイプだった。 「エイジ、どうして……」  僚介が、呆然とつぶやく。エイジと呼ばれた男は、いっそう眉をつり上げた。 「お前のスマホに、位置情報がわかるアプリを仕込んでおいたんだよ。最近、心ここにあらずって感じだったし。まさか、こんなガキと浮気してたなんてな」  百合人は、混乱し始めた。一体、この男は僚介の何なのだろう。すると僚介は、男にこう告げた。 「エイジ。彼は、妹のカナの家庭教師なんだ。彼もゲイなんだけど、マッチングアプリで出会った相手に強引な真似をされそうになっていたから、助けていた。彼とは何でもない。弟みたいなものだ」  百合人は、言葉を失った。そんな百合人に向かって、僚介はすまなさそうに告げた。 「百合人君、ごめんね。エイジは、僕の彼氏だ。将来を誓い合った仲で、近々両親にも紹介する予定だ」

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