41 / 73

 ――彼氏……。将来を……。両親にも紹介……。  信じられなかった。クールに見えた僚介に、そんな相手がいたなんて。一方エイジは、まだ疑わしそうな顔をしている。 「それでホテルに? 本当か?」  百合人は、どうにか気を取り直して、スマホを取り出した。アプリでのユウイチとのやり取りを、エイジに見せる。 「本当です。僕、この人とこのホテルで会っていたんです。強引な真似をされそうになって、逃げましたけど……。僚介さんには、アプリの使い方を教わっていただけです」 「何だ……。君、誤解して悪かったな」  ようやくエイジが、安堵の表情を浮かべる。それを見た僚介もまた、安心したように微笑んだ。その笑顔に、胸が締め付けられる。 「じゃあ俺、帰るわ。お前も乗ってくか? バイクで来たんだ」  エイジが僚介に、ヘルメットを渡そうとする。さすがに僚介は、百合人を見て、ためらう素振りを見せた。 「いや、僕はこの子を送って行くよ。まだ恐怖が癒えていないだろうから」  そうか、とエイジはあっさり帰って行った。彼がいなくなると、僚介は百合人に頭を下げた。 「百合人君、ごめんね。エイジのこと、話していなくて」  いえ、と百合人は言った。勝手に僚介のイメージを作り上げていたのは、自分だ……。 「実はエイジとは、あのアプリで出会ったんだ。最初は遊びだったけど、お互い本気になって。僕が留学から帰ったのを機に、両親にも打ち明けようと話し合ったばかりだった。気持ちに応えられなくて、ごめん」 「……」  黙り込む百合人を見て、僚介は申し訳なさそうな顔をした。 「でも、百合人君を弟みたいに思っていたのは本当だよ? 可愛くて、大事な存在だった。だから構いすぎてしまって、エイジも疑ったんだと思う」 「もういいです」  百合人は言った。これ以上僚介の顔を見ていたら、涙がこぼれそうだった。

ともだちにシェアしよう!