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フェーズ3:大学時代(後編)

 僚介に失恋して、一か月が経った。百合人はぼんやりと、大学の構内を歩いていた。  あの後百合人は、カナの家庭教師を辞めた。カナと母親はひどく残念がり、それには胸が痛んだが、あの家で僚介と顔を合わせるのは辛すぎたのだ。  ――一体、僕はどうしたらいいんだろう……。  これ以上失恋を重ねるのは、耐え難い。かといって、行きずりの相手と遊ぶ勇気も、結局出なかった。百合人は、魔法をかけられた我が身が、ただただ恨めしかった。  ――どうにかして、この魔法を解いてもらえないだろうか……。  アポロンの機嫌を取るか、あるいは弱味を見つけてつけこむか。方法はどちらかしかない気がした。そのためには、アポロンについて知識を得る必要があるな、と百合人は思った。  ――本気で彼と戦うなら、まずは敵を知らねば……。  今さらだが、ギリシャ神話の本でも買ってみようか。そう思いながら、百合人はキャンパスの外に出た。駅へ向かった歩いていたその時、背後で鋭い男の声がした。 「ヒナタ?」  ぎくっとした。『ヒナタ』は、百合人がごくわずかな間登録していた、ゲイ向けマッチングアプリ上の名前だ。あのアプリを通じて出会った男は、一人しかいない。まさか……。 「ああ、やっぱりそうだ。探してたんだぞ」  強引に百合人の前に回り込んできたのは、ユウイチだった。勇気を出してホテルへ行ったものの、結局百合人は、彼から逃げてしまったのだ。 「あの大学から出てきたよな?」  ユウイチは、勝ち誇ったような笑みを浮かべている。 「何だ。すっかり騙されたぜ。高校生だ、なんてな。一緒にいたのも、兄さんなんかじゃないだろう」  どうしよう、と百合人は思った。あの時僚介は、百合人は自分の弟で高校生だと偽って、ユウイチを撃退したのだ。嘘がばれた今、どうやってユウイチを拒絶すればいいのだろう。もう、庇ってくれる僚介はいないというのに……。

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