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「君は、ギリシャ神話に関心があるの?」  はい、と百合人はうなずいた。 「特に、アポロン神について知りたくて」 「ああ、それなら是非この本を読むべきだ。アポロンの恋愛遍歴が詳しく載っているよ」  講師は、さらさらとタイトルをメモすると、百合人に渡してくれた。ありがとうございます、と礼を述べながらも、百合人はやや落胆した。知りたいのは、彼の恋愛ではなく、魔法を解く方法なのだが。 「他にお勧めの本て、ないでしょうか? さっき、女性に呪いをかけた話をされていましたよね? そういうエピソードをもっと知りたいんです」  思い切って聞いてみると、講師はあっさりうなずいた。 「それならちょうど、ゼミで扱っているテーマだね。資料をあげよう。今から研究室まで来るかい?」  「いいんですか?」  百合人は、狂喜乱舞した。  ――これで、魔法を解く手がかりがつかめるかも……。 「うん。意欲があるなら、どんどん学ぶべき。それから、この講義も聴きに来ていいよ? そりゃ、本来は履修登録をするのが正式だけど。僕はそんな細かいことは言わないから。ま、さすがに単位認定はできないけどね」  講師は、冗談めかして笑った。 「ありがとうございます。あ、僕は建築学部二年の、花岡百合人といいます。よろしくお願いします」  百合人は、深々と頭を下げたのだった。    講師は百合人を、自分の研究室に連れて行った。ドアには『(たちばな)准教授室』と書かれたプレートがぶら下がっている。うながされ入室すると、室内は山のような本で埋め尽くされていた。 「ちょっと待ってね……」  橘は、資料を探し始めた。あれこれとファイルをあさりながら、彼はふと百合人の方を見た。 「でも、アポロン神に興味があるなんて、珍しいね。女子学生なら、時々いるんだけど。イケメンだからって。……何、カッコ良くて憧れてるとか?」 「まさか!」  百合人は、語気を強めた。

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