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「そりゃ、見た目は美形かもしれませんけど。あんなチャラチャラした、女性を取っ替え引っ替えしてるような人、全然カッコいいと思えません!」 「……まるで、見てきたようなことを言うね」   橘は、虚を突かれたような顔をした。 「でもねえ、さっきの講義でも言ったとおり、アポロン神って割と失恋続きだよ? それに……、あっ」  言葉の途中で橘は、ぽんと手を叩いた。 「資料、ここじゃなかったな。学生にゼミ室まで運んでもらったんだった。失礼」 「いえ」   橘は何を言おうとしていたのだろう、と百合人は訝った。 「あちこち連れ回して悪いけど、ゼミ室まで来てもらえる?」  もちろん、異論はない。再び橘に連れられ、移動する。ゼミ室は、すぐ下のフロアの小さな部屋だった。人気はなく、しんとしている。 「多めに予備を用意してあるから、その一部を……」  言いながらドアを開けた橘だったが、急にその場に固まった。 「先生、どうしました……」  不思議に思って室内をのぞき込んだ百合人は、ぎょっとした。誰もいないと思われた室内で、二人の男が抱き合っていたのだ。たくましい筋肉質の男と、小柄な若い男だった。小柄な方の男は、シャツをはだけさせられ、ほぼ半裸だ。 「ここで、何をしている?」  橘が、静かに問う。すると、筋肉質の男が、やおら顔を上げた。それは何と、アポロンだった。

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