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”
――!!
幸いにも百合人は、絶叫せずに済んだ。アポロンが文字通り神出鬼没だというのは、過去の経験ですでに学習している。悔しいが、すでに驚かなくなっていた。
「橘先生! すみません、この時間は誰も来ないかと……」
小柄な方の男は、かわいそうなくらいあわてふためいている。橘のゼミ生だろうか、童顔で、可愛らしい雰囲気の男だ。乱れたシャツの隙間からは、無数の赤い痕がのぞいていて、彼らが直前まで何をしていたのかは明らかだった。
――てかアポロンさんて、男もいけるんだったっけ?
まじまじと見つめれば、アポロンは不敵な笑みを浮かべて、百合人を見つめ返した。今日の彼は、金髪に変わりはないが、白シャツにジーンズという学生風の服装だ。そんなシンプルな格好でも様になっているのは、美形ゆえか。
「浅野 君、学びの場でそういうことをされるのは困るな。そちらの君は? 何学部?」
橘が、眉をひそめる。答えようとしないアポロンに代わって、浅野と呼ばれた学生が説明し始めた。
「実は彼、学生じゃなくて、僕が入っている詩のサークルのOBなんです。たまたま、遊びに来てくれて」
アポロンは詩歌の神でもあったな、と百合人は思い出した。それを武器にサークルに入り込み、早速恋の相手を見つけたというわけか。
「以後気をつけます! すみませんでした!」
浅野は大あわてで服を整えると、退室するようアポロンをうながした。浅野に腕を引かれ、アポロンが部屋を出て行く。その瞬間、百合人と彼の目が合った。つい先ほどまで情事を楽しんでいたその眼差しはあまりに妖艶で、百合人は思わずドキリとしたのだった。
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