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 その翌週、橘の講義を受け終えた百合人は、大学の図書館にいた。最近の百合人の日課は、橘が紹介してくれたアポロンに関する本や資料を、図書館で読むことである。  ――せっかく教えてもらったけど。なかなか、ヒントは無さそうだな……。  目を通しながら、百合人ははーっとため息をついた。アポロンの生い立ちや司る数々の能力、女性たちとの恋愛エピソードについては詳しく書かれていたものの、魔法を解く手がかりは見つかりそうになかったのだ。  それどころか、アポロン自身の力を持ってすら、魔法は解けないのではないかと思えてきた。講義に登場したカサンドラという女性は、アポロンにより予言能力をプレゼントされたものの、彼をふったことで『カサンドラの予言は誰も信じない』という呪いをかけられた。それは、ひとたび与えた予言能力は、アポロンにも取り消せなかったからではないか、というのだ。  ――じゃあやっぱり僕は、七回失恋するしかないのか……。  あと五回、と考えただけで気が滅入ってくる。百合人は、重い腰を上げると、図書館を出た。読書に夢中になっていたせいで、外はもう真っ暗だ。  ――そういえば、学内でアポロンさんに出会わないな。  百合人は、ふと思った。わざわざ大学に現れ、詩のサークルに入ったのは、前回同様百合人の観察目的かと思ったのに。同じキャンパスにいるというのに、アポロンが百合人の前に姿を現すことはなかった。  ――あの浅野って子と会うのに忙しいからかな……。  百合人は、一度会っただけの若い学生の顔を思い浮かべた。アイドルにでもいそうな、可愛らしい男の子だった。美少年との恋愛エピソードは多かったと橘も言っていたし、アポロンは彼に夢中なのだろうか……。  ――馬鹿馬鹿しい。要するに、節操なしじゃんか。  百合人は、ぶんぶんと頭を振った。人気のない図書館の駐車場を突っ切り、正門へ向かう。駐車場には一台の車が駐まっていたが、考え事に夢中になっていた百合人はまるで気づかなかった。その車のそばを通った瞬間、中から一人の男が飛び出してきた。  ――!!  それは、あっという間の出来事だった。百合人は羽交い締めにされ口を塞がれ、車内へと連れ込まれた。 

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