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『どうやら、慕っているのはお前だけのようだな』  アポロンが、勝ち誇ったように笑う。百合人はカッとなった。 「で、でも! 橘先生は、好きでもない相手を抱いたりしません! たまたま今までは言ってくれなかったかもしれないけど、きっとこの先言ってくれます。誰彼構わず無節操なあなたとは違うんだ!」  言った後で、百合人ははっと口をつぐんだ。いくら何でも言い過ぎたか、と思ったのだ。橘から紹介された本には、アポロンには残虐な一面があったと書かれていた。生きた人間の生皮を剥いだ、というエピソードも出てきたくらいだ。  ――ヤバい。恐ろしい目に遭わされたりしたら……。  内心おびえていた百合人だったが、アポロンは意外にも冷静に答えた。 『私は、誰かを愛する時は、常にその者一人だ。同時に他の者に情けをかけることはしない』  確かにそれはそうだったか、と百合人は思い直した。恋多きアポロンだが、愛した相手には一途という印象だった。 『だが、あの男はどうかな? これを見よ』  アポロンは突如、百合人に向かって掌をかざした。百合人は、あっと思った。そこには、別の世界が映し出されていたのだ。さっきまでいた、橘の研究室だった。  部屋には橘の他、もう一人の男がいた。その男には見覚えがあった。橘のゼミ生で、最近までアポロンの恋人だった、浅野だ。  二人は、親密そうに話し込んでいる。次の瞬間、百合人は目を疑った。橘が浅野を抱き寄せ、ソファに押し倒したのだ。百合人の躰を貪ったばかりの、あのソファに……。

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