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「ああ、ペット以下でしたっけ。何匹いてもよくて、飽きたら捨てるんですよね?」 「おい、どうしてそれを……」  橘の顔色が、本格的に変わる。百合人は、にやりと笑ってみせた。許せないという強い思いが、百合人に大胆な嘘をつかせていた。 「この部屋のドア、先生が思ってらっしゃるよりも薄いですよ。中の会話は、筒抜け。ちなみにこの話、文学部長も聞いてらっしゃいました。ペットを捨てるよりも重い罰が、先生を待っているかもしれませんね」  橘と浅野が、一様にぽかんと口を開ける。百合人は、くるりと彼らに背を向けた。 「こら、待て……」  橘は百合人につかみかかろうとしたが、そこで自分が半裸なのに気づいたようだった。彼がもたついているうちに、百合人は、走って研究室を後にした。  ――もう二度と、ここに来ることはないだろう……。  文学部棟を出ると、そこにはアポロンの姿があった。 「見事な反撃であったな」  彼は、いつの間にか学生姿に変わっていた。手にはなぜか、大きな袋をぶら下げている。通りかかる女子学生たちは、チラチラと彼に視線を送っていた。 「アポロンさんのおかげです。あの部屋の中を、映してみせてくれたから」  ぼそりと答えると、アポロンは意外そうな顔をした。 「まさか感謝されるとはな。てっきり、私を恨んでおるかと思っていたが」 「そりゃ、魔法のことはムカつきますけど。でも、橘先生を選んだのは僕の自己責任ですし。彼の正体を教えてくれて、助かりました。早く手を切ることができました」  素直に頭を下げると、アポロンは調子が狂ったようだった。 「そ、そうか……。まあとにかく、三たび目の失恋、見届けたぞ。……それから、これをお前にやろう」  アポロンは、手にしていた袋から、大きな花束を取り出した。

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