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(おいでって……)  そう言われて、何故だか気が抜けた。その呼び方がペットを呼ぶような軽い呼び方だったのもあるし、本来ならその呼ばれ方はされることがないはずのものだからかな。  例えばベッドから呼ばれるとしたら、本来なら、 「おいで」  じゃなくて、 「来て」  だったはずだ。ベッドで待ってるのもこんなにでっかい男じゃなくて、ちっこくて可愛い女の子で。それでも、 「泉」  再び上着を脱いだ壱人に名前を呼ばれ、不覚にもときめいた。その声に文字通り呼ばれて、怖ず怖ずとベッドに這い寄っていく。ベッド脇に腰掛けた途端、壱人に腕を強く引かれ、そのままベッドに引き倒されて、すぐに唇を塞がれる。 「んっ……、ふうっ。んっ」  わざとちゅくちゅくと水音をたてながら、口の中を執拗に掻き回された。さっきまでの何度も触れるだけの小さなリップ音をたてるそれじゃなくて、激しいキスに目が眩みそうだ。  強く吸われる舌も。それから、壱人の舌先が触れる口内の全てが気持ち良くて。鼻息が荒いのが恥ずかしくてたまらないんだけど、壱人も同じだから別にいい。 ベッドに敷かれたバスタオルの存在が少し気になったが、俺たちは行為を続けた。この腰の辺りが少し盛り上がったタオルの用途を考えると少し不安になるけど、なんとか考えないようにと壱人の背中に腕を回す。  どうやら腰の辺りに普通のスポーツタオルを数枚足しているようで、つまりはこれってシーツの汚れをガードするためのものだ。これからその……、考えたくないけど、ローションを使うとシーツがどろどろになるだろうし、初めてのそれはちょっとの流血も覚悟しないといけないだろうし。  ほんと、落ち着いてよく考えてみれば、最初から気持ちいいとか、そのシーンが綺麗に描写されているのはベーコンレタスの世界だからこそなんだ。現実的に考えたら女の子だって、処女を捨てる時の痛みと流血は付き物なんだし……、そう覚悟を決める。  父さん。母さん。腐女子の姉ちゃん。  俺、男になります!  ……ってか、この場合は壱人の女になります、が正しいのかな。なんて、余裕があったのもここまで。 「……あっ」  壱人の手が、再び俺の下着に伸ばされる。 「泉。かわい」 「……ん。ひ、ひんっ」  それから続く行為にただ流された俺は、壱人との初めてのセックスに溺れていった。

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