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10:その名を背負う者

 神崎とルームメイトになって、一ヶ月。  僕の日常は、想像していたよりもずっと平和だ。  変わったのは季節だけで、分かったことは、岩清水先輩のモーニングコールが案外容赦ないことくらい。  神崎は相変わらず弓道部と生徒会の活動で忙しそうにしていたし、同室になったからって、ふたりで過ごす時間は思ったより増えなかった。  それでも、夜中に聞こえていたうめき声やすすり泣きが少しずつなくなって、僕の存在は彼にとって少しでも意味のあるものだったかと思うと、なんとなく誇らしい気持ちになった。  神崎は天性の人たらしで、彼の周りにはいつも人がいたけれど、僕に気がつくと、いつもアーモンド・アイをまん丸に輝かせて駆け寄ってきた。  そんな時は堂々と優越感に浸ったりもしたけれど、神崎にとっての一番が木瀬先輩なのは変わらなくて、それどころか件の救出劇以来さらにハート型の眼差しに拍車がかかっていた。  だから、僕はいつでも相談に乗ってやるつもりで待ち構えていたのに、神崎は僕の前で一度も先輩の名前を出さなかった。   **  今日は、土曜日。  定期考査の結果発表が終わったのと、梅雨の晴れ間が重なったこともあって、寮はほとんど無人だ。  外出許可証を持った寮生たちの列の中には神崎もいて、カラオケに誘われたとかなんとか浮かれながら出かけていった。  彼は律儀に僕にも声をかけてくれたけれど、僕はとてもみんなと騒ぐ気分にはなれなかった。  今、僕の手の中にあるのは、昨日配られたばかりの定期考査の成績表。 『学年順位:2位』の文字が、容赦なく目に入る。  1位は、誰かって? 『1位 神崎理人 698/700 点』 「怪物」 「別次元」 「天才」  張り出されたテスト結果に群がった生徒たちは、思い思いの言葉で神崎を畏怖してみせた後、落とした2点の行方を気にしていた。  どうやら、数学の問題で単位を書き忘れたらしい。  職員室で、牧先生に「入試の時と同じミスだぞ」と呆れられているのを聞いた。  当の神崎は「はあ」と生返事するばかりで、他の先生や生徒たちにどれだけ褒められても、どこか他人事みたいだった。  でも自分のすぐ下に僕の名前があるのを見つけると、人目もはばからずにきゃあきゃあ喜んで、かと思ったら、「まさかバディ解消になったりしないよな……?」と場違いな心配をしていた。  僕はそんな彼に笑って、でも、上手く笑えていたかどうかはわからない。  ダメなんだ。  2位に甘んじるなんて、『西園寺』の名を背負う者には決して許されない。  たとえ、対峙する相手が〝怪物〟だったとしても。

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