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第2話

「れーんちゃーん!」  仕事が終わり学園から出てくるタイミングを見計らい、柳は(れん)に気付かれるよう大声を上げて手を振った。  それには憐もギクッと肩を跳ねさせ、早足で近付いて来た。 「……あなた昼間の。なんで名前知ってるの」 「まあまあそれはオレ様の独自の情報網でな……ってちょい待て! 携帯出すな! お前完全に通報しようとしたろ!」 「明らかな不審者がいれば警察に通報するのは一般市民の努力義務。それに教師としてもこんな人が学園近くにうろついていて生徒に何かあったら……というか、僕の責任にされるのも嫌だし。保護者は怖いよ、僕なんてすぐ圧力かけて辞めさせられちゃうに決まってる」 「ちっげーよ、オレは憐ちゃんに会いに来たの。ほら頼むから携帯しまって」  憐は怪訝な目で見ながらも、ひとまず携帯をしまってくれた。  当然だが、まだ警戒心は解けていないどころか、犯罪者を見るような目つきである。 「……それで。僕に何の用。えーと……」 「柳。柳義之」 「柳……さんね」 「義之っていいって憐ちゃん」 「その呼び方やめてくれる。じゃあ、義之さん。いったい僕に会いに来た理由とは」 「これからオレとホテル行かね?」  あまりにデリカシーのないナンパのような発言に、憐は何事もなかったかのように真顔で歩き出した。 「違う! 間違えた! あっそうそう飲み行かね? っつー話で」 「……それで酩酊させてホテルに連れて行って一方的な性交渉を行うという典型的な例でしょ。それって犯罪だよ。なんだよ、僕は女性と間違えられたことなんて一度もないんだけどな」 「わかってるし! つかオレ男にしか興味ねーし!」  聞くや否や、歩幅をさらに大きくしてしまう憐。  柳はしまったと走って追いかけ、憐の前に立った。 「待てよ! いや……まあオレちょっとだけ? バカだからさ。言葉選び間違えたけど……。その、憐ちゃんに興味があんだよ!」 「それは何故」 「何故って……理由がなきゃいけねぇの?」 「いけない」 「はぁ……」  盛大にため息をついた。正直なところ、柳もこのような気持ちになったのは生きてきて初めてのことだった。  クラブやプライベートでも自身の欲望のままに男を襲い、数々の人間の人生を破滅へと導く手引きをしてきた。それに罪悪感などないし、今だって後悔は一ミリたりともない。  だから理由を挙げろと言われても、どう答えて良いか上手く頭が回らない。だが、この憐相手にはあまり時間の猶予を与えてもらえそうにない。 「昼にさ……ちょっと話したろ。それで、なんか変わってんなコイツって思って。単純に、話がしたくなって……。憐ちゃんのこと、もっと知りたくなって。それが理由じゃ、駄目か?」  憐は腕組みをして少し考えるような素振りを見せた。 「……僕も義之さんのことは変わってるって思ったよ。悪い意味で。ま、お腹空いてるし、ご飯くらいならいいかな」 「マジか!?」 「ただし酒は飲まないしいかがわしいところには絶対に行かない。あと、義之さんの奢りで」 「あ、あぁ……でも、よっしゃァアア!!」  食事の誘いだけであるのに、まるで告白に成功した中学生のごとくその場でガッツポーズをした。  欲しいものは何だって手に入ってきた柳が、初めて苦戦した人物である。なんだかそれくらいに嬉しかった。

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