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第3話

 大橋憐(おおはしれん)は、29歳の化学教師で、幼少時代から成績はトップクラス、著名な大学を卒業しながらも、あえてブランド力のある明皇で働いているということだった。  会話だけでも勉強漬けの日々であったことが伺え、難しい例えをされるたびに最終学歴は高校、それもほとんど勉強などした覚えのない柳は、それだけで頭が痛くなった。  しかも柳以上に図々しいというか、気遣いというものを知らないのか、食べたいものを値段を気にせず次々に頼み、とても初対面であり職業不詳の歳下の人間に奢らせるとは思えない行動であった。  ともすれば、それで柳が身を引いてくれれば良いとでも思っているのだろうか。  実際、柳は無職同然の自堕落な生活を送っているが、クラブでの小遣い稼ぎなどで持ち前はあるため、その程度ははした金ではあったのだが。  だが、例えば飲み物に細工をしようにも、憐が女以上に気を張っているものだから、隙が全くなかった。男が性の対象であると明かしてしまったのはかなりの痛手だ。  脱色を繰り返して傷んだ頭がさらに痛み、自身の失敗を悔いて猛烈に掻き毟りたくなった。  キッチリ食事だけを終え、お代も柳に払わせてから、憐は店を出た。 「お腹いっぱい。じゃあ」 「いやいや待ってくれって、連絡先くらい交換しようぜ? な?」 「ああ、面倒だから親類か職場以外の人には教えない主義なんだよね」 「教えてくれないなら毎日通い詰めっぞ」 「好きにすれば。そうしたら今度こそ通報するから」 「ぐぬぬぬぬ……」  いくらなんでもこんなところで無闇に通報されるのはまずい。  何も知らない一警察官に根掘り葉掘り聞かれようものならヤクザである素性がバレてしまうし、そうなっては組が、何よりもクラブが許してくれる訳がない……。  組では今時は指詰めなんて流行っていないから、半殺しか金を積むくらいで済むかもしれないが、クラブの恐怖たるや誰よりも知っている。  それこそ見世物にされて地獄の苦しみを味わった後に殺される。さすがの柳でもそれだけは避けたいと考える脳はあった。  そうして、その夜は憐の良いようにされたのだった。

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