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第4話
本来ならば猛獣のように追いかけて手を出したかったが、柳も人間だ。
押して駄目なら引いてみろという作戦とは少し違うが、学園近くで憐を観察することにした。
憐は本当に何故教師になったのだろう? と思うほど生徒や他の教師に媚びへつらうことなく、あくまでマイペースに仕事をしていた。
しかし、学園近くにいるとまた警戒度が高くなってしまいそうである。
故に、柳は終業後の彼を尾行して家を突き止めた。単身には十分な立派なマンションで、一人暮らしをしているようだ。
だが、当然であるがオートロックのせいで思い切りばれてしまった。
ギロリと睨んでくる憐に対し、悪戯っ子のように片手をひらひらと振る。
「……れ、憐ちゃんばんはー」
「……尾けてたの」
「学園の周りにうろつくのは駄目なんだろ? じゃあ憐の家なら」
「完っ全にストーカーだね。はい警察」
「いや、だからやめろ、」
携帯を取り出し指を滑らそうとする憐を必死に止める。
「っ……義之さん。僕のどこがそんなに……」
舌打ち混じりの憐の声は、苛立ちと、そしてどこか哀愁が漂っていた。
“僕のどこがそんなに”
気になるんだ、と言いたいのだと思う。しかしそれは、気にされないような環境にいたのだろうか、とさえ勘繰ってしまう。
気にされない、というより、男兄弟の三男が故に、それはそれは破天荒を許されていた柳には、憐の家庭事情など知るよしもない訳で。
「なんでもいいじゃん。気になるものは気になる、んだよっ!」
憐の手を握って半ば無理やりに敷地内へと入る。憐はあまりの強引さに驚き、声を出すことすら忘れてしまっているような感じだった。
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