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第5話 ※

 なんだかんだで、部屋に侵入することには成功した。  しかし男の独り住まいだというのに、それほど散らかってはおらず実に簡素な部屋だった。あえて言うなれば、本棚や机には学術書や書類が散りばめられていたが。 「そんなに僕の部屋が珍しい?」 「ああ。オレってばホテル……じゃねぇや、友達の部屋とかに泊まらせてもらうことが多かったからよ。いや、独り身の男の部屋なんてひっでーのが大半だろ? 憐ちゃんの性格を表しているかのように綺麗な部屋だなーって感心してたのよ」 「……それはどうも」  柳がリビングへ行き、人の家だということも忘れてあぐらをかいて待っていると、憐からは一応はもてなしの精神はあるようで、コーヒーが二つ出てくる。  憐はコーヒーには口をつけず、腕組みをして高圧的に柳を見ている。 「わざわざここまで来るなんて、そんなに僕を襲いたいの」 「襲いたいっていうか、気持ちよ~くはさせてあげられるぜ?」 「本当に馬鹿馬鹿しい」  憐が片手をズボンに這わせるが、そこでポケットに携帯がないことに気付く。 「携帯ならオレが隠しといたぜ」 「な……いつの間に」  柳の手癖の悪さには、憐も目を見開いた後、しかめっ面になる。 「まあまあ。そういう相性って大事だし、身体から関係が始まることもあるんだぜ」 「…………ふん。そう。ならやってみれば」  「無駄だと思うけど……」と自棄的に小声で言う憐の声はもう柳には届いていなかった。  合意とも言える言葉を聞くや否や、嬉々として憐を抱き寄せると、その薄くて冷たそうな唇を奪っていく。 「ん……ん」 「んぁ……ふぅ、ちゅっ、じゅるううぅううれろぉお……」  普段はあまり前戯などしない柳だが、ここで憐を離してしまうのは惜しい。全力で舌までを使い、彼の口腔を貪った。  身体も無臭に近いが、そこまでケアをしているのか何なのか口の中も無味に近かった。そういう憐は、獣のような情熱的なキスにも死んだような目を変えない。  たっぷりの唾液を送り込んで、互いの唇に銀色の糸が引く。それでも憐は、嫌がったりもしなければ、面白味もないほど反応がない。  柳はすっかり股間にテントを張っていると言うのに、憐の体温は以前変わらなかった。股間に目を移しても、何の変化もなし。 「ブハハッ。あんだけやってやったのに憐ちゃんのチンコシナシナ」 「……男同士で感じる訳ない」 「え? じゃあ普段なにをオカズにしてんの? 気になる~」 「何も。そういうこと自体あんまりしないし」 「またまた」 「別にこんなこと、嘘つかない」 「…………マジ?」  いくら聖職者とはいえ、所詮は男。獣欲には逆らえないことを、今まで散々見てきた。  なのに憐は、キスすらどうってことない、ちょっとした事故に遭ったくらいの顔をしていて、性に疎すぎる。 「え……じゃあ……憐ちゃんって、セックスどうしてんの? 童貞?」 「……一応童貞ではないけど。恋人は作る気ないね」  実際に身体で知り、愕然とする柳。どんな人間でも、三大欲求である性欲があるのだと信じていた人生だった。  だが憐はそうじゃない。たぶん本当に、寝て起きて、腹が減ったら最低限の食事をして、仕事をして風呂に入ってまた寝て起きて。そんな生活をすれば十分の男なんだ。 「……これでわかったでしょ。僕はいわゆる……不感症なの。女性とも付き合ったことあるけど、それが原因で振られてさ。そりゃそうだよね、子供が欲しい側からすれば勃たない男なんて役立たずだから」 「俄然燃えてきた……」 「は?」 「逆に考えてみろよ。オレが相手ならガキができる心配はないし、オレの開発次第で憐ちゃんも良い思いができるかもしれない」 「開発……って、これからもこんなこと続けるつもり?」  不感症と知れば皆が逃げていくと思っていたのだろうか。  憐は少しびっくりしたような顔をして、けれども次の拍子には、抗うのも面倒臭そうに「勝手にすれば」とこめかみを押さえていた。

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