まだ残っている感触にそっと触れる。消えない…。一目会うだけのつもりだった。だけど、一目惚れだった。まさかそんなことがあるなんて考えてもいなかったし、本気で欲しいと思うなんて思ってもいなかった。 　欄干の上を歩いてみたのは、ただ何となく…。どんな反応を見せるのか見たかっただけ…。いや、違う…。目の前に現れた真中聡弥に、自分の印象を植え付けたかったからなのかもしれない。このままで終わりたくないと思ってしまったから…。 　アルコールが苦手なのに、僕のために作ってくれたしょうが湯を飲んだのも、本当に嬉しかったから。そのまま眠ってしまったのは予定外だったけど、それでも居心地のいい時間だった。 　いつも幸せそうに話す社長の息子が、どれほどの奴なのか、初めは興味本位だった。それなのに…。 　出会った瞬間、恋をした。誰かもわからない男に向かって差し出された手を掴みたいと思った。せめてもの抵抗だったのかもしれない。自分にセーブを掛けたのかもしれない。その手を握ったら、引き返せなくなると…。 　わかっていたはずなのに、目の前で本気で怒る真中聡弥を見ていたら、掴んでみたくなったんだ。自分でもバカだって思っている。それでも、どうにもならない気持ちがあるんだと感じた。 　平然を装うのには、限界がある。何でもないフリをするのには、限界がある。今だって、僕の心臓はどくんどくんと脈を打ったまま止まらない。 「くそ…」 　拳を握りしめながら、自分の胸を押さえつけた。