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第5話
「それにこの部屋に通されて驚きましたよ。事前に決めていた部屋とは違うから。これは一体、どんなサプライズなんです?」
敏也と元婚約者は新婚旅行をしない代わりに式のあと、しばらくこのホテルで過ごすことになっていた。その部屋は普通のダブルだったのだが、今、私達が居るのはオーシャンビューのスイート。これは私の部下達の計らいだった。
「こんな部屋、一生に一度しか泊まれないかもしれない。余計に緊張感が増しますね。それにテラスから望んだ夜の海が本当に綺麗で……」
饒舌に話す敏也の手から静かにシャンパングラスを奪い取る。驚いて黙った彼と視線が合うと、どちらからともなく口づけを交わす。
何度か角度を変え、高い水音が響き始めた唇から離れると、私は彼に語りかけた。
「……もうベッドに行きませんか。今夜は初めての……、夜なのだから」
彼が息を呑んだ様子が耳元に小さく響く。先にソファから立ち上がった敏也は私の手を取ると、
「ええ、結婚して初めての夜ですからね」
と微笑みかけてくれた。
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