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第8話
「……貴方が初めてですが」
そこまで言って敏也が、あ、と声をあげた。
「もしかして僕が童貞じゃないかって不安になった? 違いますよ。少なからず女性は抱いたことが……」
検討違いの返事に敏也の前に手のひらを突きだした。彼は黙って私の出方を窺っている。私は意を決して彼に打ち明ける。
「実は私は『抱かれるほう』の経験はあまりないんです」
「……それってつまり、千晶さんは僕を『抱きたい』ってことですか?」
明らかに彼が驚いている。それはそうだろう。今までの彼は当たり前のように『抱く』側だったのだから。
結婚式の準備の三ヶ月間、私と彼は互いの趣味や好きな食べ物、苦手なことなど沢山の情報を交換してきた。だが、そのときはこうなるとは露知らず、当然互いの性癖など知る由もなかったのだ。
あー、と彼が困ったように後頭部を掻く。いきなり『抱かせろ』と言われた衝撃はかなりのものだろう。着ているものを乱したままで向かい合って座り込む。
しばらく互いの気配を探りあっていたら彼が何かを決心したように唇を開いた。
「わかりました。初体験だけど千晶さんが僕を抱きたいのなら」
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