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第5話 高瀬
真乃斗くんはこの3月に、2年間通ったIT系の専門学校を卒業したばかりだ。
なんとか卒業制作が間に合って、
それはあまりに奇跡だと騒いでいた真乃斗くんをふっと思い出す。
そして、
卒業を待たずにこの部屋にはじめて真乃斗くんを招き入れたのは、
去年の12月の終わりのことだった。
それは真乃斗くんの誕生日の前日。
彼の誕生日当日の夜は、一緒にはいられなかったから。
その日、真乃斗くんへの気持ちをどうしても抑えきれなくなってしまった俺は、
あと数時間でハタチになるというその肌に、はじめて触れた。
もちろん、本人の了承を得て。
あの日、初めて触ったその肌もアツくてしっとりしていた。
出会ってからは、もうそろそろ2年がたとうとしてる。
去年の4月。
桜の花びらがずいぶんと散ったころに
はじめましてと言ってお辞儀をした真乃斗くんを、
まるでつい一瞬前のことのように、
揺れる髪の一本一本まで思い出せる鮮明さで覚えている。
「ねぇ、あっちの方行ってみない?」
大きな桜の木がいくつも植わっているその公園を通り抜けた先にある、
いままで二人ではあまり行ったことのない方を指さして真乃斗くんが言う。
「いいよ」
それは本当にそう思った。
真乃斗くんがいるなら本当にどこでもいいと思う。
どこにだって一緒に行きたいと思う。
「今日は花粉は?」
真乃斗くんは今年、花粉症の疑いがあるるらしいのだ。
「ん。ちょっとむず痒いけどへーき」
俺の少し先を歩く真乃斗くんは、くるりと顔だけをこちらに向けて言った。
フード付きの薄手の淡い、ダボっとした水色のジャケットが
線が細くて脚の長い彼にとてもよく似合っている。
「高瀬さん、お昼はコーヒー飲んじゃダメだよ」
「はいはい」
過去、気づけばコーヒーを淹れてしまっている自分に気づかされたのは
真乃斗くんではなかったけれど、
いまでは彼がそれを気遣ってくれている。
今日、すでに2杯目を飲み終えている俺をちゃんと見てくれていることに
やっぱりどこか、幸せを感じた。
「また~。はいは一回だってば」
「は~い」
こんなやりとりも、あとどれくらいしてもしたりない気がする。
真乃斗くんがこうしてそばにいてくれることに
俺は年甲斐もなく明らかに、完全に浮かれていて、
それだけで世界はいとも簡単に、
キラキラと光を伴って彩鮮やかに映ってしまうのだ。
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